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連作29 芳連作02 5分の4
+++++++++++++++++++++++++++++++
種別 連作系第29期 芳連作02
題名 『 5分の4 』
初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
1998年03月08日02時22分
注釈 行頭スペース+30W
+++++++++++++++++++++++++++++++
SUBJ:【芳連作】02 5分の4
ST V.4.4 SLBs Nobi-Standard
それほど芳しくもないのですが しかし 芳連作 #02(B群)
『 5分の4 』
作:しびる
その人に気付いたのはいつだったか 昼夜が逆転して数年 昼間
眠って夕闇迫る頃に起きる そんな暮らしのある地点で あたしは
その人の存在に気付いた FMラジオを聞きながら机に向かい 少
し飽いてベランダから下界を眺める その人は立っていた
深夜の街は人影もなく ネオンの喧噪は遥か遠く 真下に見える
のは街灯と信号とコンビニの照明 信用金庫の植え込みに沿って歩
道が続き マンションの寸前で南北道路と交差する その場所に
『たっだいま いやあ飲んだ飲んだ ただ酒ほど美味いものは』
『あ おかえりなさい なあに さちこ またたかり酒なの』
ベランダからぼんやり 専用のイスに腰掛けて手摺に頬杖を突い
て 今夜もあの人が見えるかなと 25時 玄関から賑やかな声
『だって勝負でしょ やりたいって思うなら たかられても当然』
『なんか身も蓋もない ああ ちょっと 触らないでよ』
振り返れば同居人 短大の頃からの付き合いで この部屋はあた
しの仕事場兼住居であると同時に 彼女の荷物置き場でもある 着
替えや貴重品 彼女はこの部屋を基地に街のどこかで暮らしている
『まーだこんな陰気な仕事をしてるの 月にいくら稼ぐわけ』
あたしの仕事机に向かい ぺらぺら原稿をめくって鼻で笑う 正
業に就く人間が たかり酒で酔いの回る彼女にバカにされる アリ
とキリギリスはお互い納得の上 さちこは虚勢で嘯くばかり
『食べて家賃払って映画見て服買って 定期と保険を積み立てるく
らいよ さちこに比べれば雀の涙 どうするの ウチで寝るの』
『ただいまって 言っただろうに まあいいや なにしてたわけ』
イスをくるりと回してベランダを後にする 女のあたしでもうう
むと唸るくらいの端正な顔立ち ソファーに深く沈み込み あたし
は慌てて原稿を整える 大股開きでショーツ丸見え 天井を眺めて
『やっぱりあれ 月のない夜は来るでしょ 泣き言なら聞くわよ』
『ただの息抜き 泣き言を人に話す趣味はないもの 大丈夫なの』
さちこはそのままの姿勢でソファーに仰け反る 彼女が誰よりも
繊細なのは知っている くるくる動かす瞳を見るうちに 不思議な
感覚が沸き上がってくる 向かい合って座り 膝を閉じさせる
『ぜんぜん大丈夫 好きなことしてるんだから ってことよ』
それ以上深く話すつもりもないだろうし 聞くつもりもない 沈
黙を埋める女性の声はラジオから それでは足りなくて なんとな
く浮かんできた話題で繋ぐ 意味も持たせず 立ち上がりながら
『コーヒーを入れるけれど さちこも飲むでしょ そうそう ただ
の息抜きってのは 下界を眺めてたの 水槽みたいなものね』
『はあん 下界で騒いでるあたしらは魚類か いい趣味じゃない』
10階建てのマンションの最上階 モヤの掛かった下界を眺める
と まるで街のすべてが水没したような錯覚 妙な距離感は車も人
も水棲生物のように感じさせる それぞれに生活があるなんて
『いい趣味でしょ 向こうの交差点から歩いてきた人間が ピコマ
ートに寄って大学に入っていくの 観察記録を付けようかしら』
『勝手に名前を付けたりしてさ それ面白いじゃない 悪趣味で』
スプーン一杯のインスタントコーヒー ポットの湯を注いでかき
混ぜて トレーに乗せてソファーに戻る 部屋の両端に配したスピ
ーカーから 昔熱中していた洋楽が流れる どこかに繋がった
『この時間になると誰も通らないのに はいこれ 決まって同じ時
間にやってくる人がいるのよ いつも同じ服で 下の交差点に』
『ありがと そうなると ペットみたいなものね あちっ』
信用金庫と大学があるだけで 夜間はまったく静かな通り たま
の歩行者もピコマートで引き返す 真下のコンビニは深夜の経営が
成り立っているのか 昼間こそ大学生が立ち寄りもするが
『だから見てたのよ 交差点から先 どこへ行くのかいつも見失う
から なにか気に掛かるのよね こーゆーのって ほら』
『趣味が違うでしょうに みんな同じだと思うのは間違い』
そうなのだ あの人を見付けてどれくらいになるか いつも点滅
信号の歩行者ボタンを押して 押さなくても車など通りもしないの
に 赤の点滅が赤に変わり そしていつも見失う なぜかいつも
『みんな気になるわよ 1時ちょっと過ぎ さちこ 今ならちょう
ど見れるかもしれないわね よしっ ほら立って ほらほら』
『あー揺するのは辞めてくれえ わかったわかった なんだかね』
なぜか共犯者が必要な気がして カップを握ったまま薄目のさち
この腕を掴む そしてそのまま引っ張ってベランダへ 月のない空
『あら 珍しくお客さんね 自転車の女の子じゃないわ』
『さすが詳しいじゃない このマンションの住人みたいね ふん』
たまにこの時間 自転車に乗った女の子が訪れる 今コンビニか
ら現れたのは別の女性 凄い勢いで足元に消えた おそらくこのマ
ンションに入ったのだろう 珍しいことだ そして視線を移すと
『ほらあそこ いるわ 点滅赤信号の下 さちこ 見えるでしょ』
『それよりもねえ あれはアルバイト君の彼女かな いいねえ若い
衆はこんな時間に あたしの人生の5分の4があんなだったらね』
さちこの人生の5分の4 彼女の20年間は家庭の事情で大変だ
ったらしい その後の5年間はこんな調子 その話題はとにかく
『たぶん中年の男の人だと思うけれど どう思う 木が邪魔で』
『どれ こっちからだとよく見えないわよ 人なんている』
身を乗りださないと見えない マンションの植樹が邪魔をするそ
の先に さちこはそれほど乗り気じゃないから おざなりに確認し
てコンビニ前の男女を眺めている 黒い服の人影が佇んでいる
『おっ チューするもんなあ もうばかばかしくなってきた』
『信号が変わったわよ なのに どうして渡らないのかしら』
自転車の女の子が凄い速度で走り去る あたしは見ていなかった
けれど もしキスするような関係なら 名残を惜しんでもよさそう
なもの 言い寄って逃げられた それが正解だと思う バイト君が
馴染みの客に声を掛けて振られた そんなところだろう
点滅赤信号が赤信号に変化する 今日こそは交差点を渡ってどこ
へ向かうのか確認しようと思ったのに 一向男性は渡る気配がない
身を乗りだせば既に人影はなく またもや見失ってしまった さち
こは鼻で笑って部屋に戻る なんだか釈然としない気分だけが残り
再び信号は点滅し始めた どうでもいいことだけれど
》 しびる 《
+++++++++++++++++++++++++++++++
(のりこ)>5分割の2です タイトルは4ですけど
(しびる)>決まりその1 本文に必ず『5分の某』を入れること
(のりこ)>順番にやればいいのに 1のときは就業時間 以後タイ
トルで話しますけど この4のときは同居の相方さちこ
ちゃんの人生 分割は時間・時間ときましたね
(しびる)>そのへんはなんでもいいんだけど いきなし核心だな
(のりこ)>例の交差点の男性ですか 1ではほぼ水平面で観察して
距離的にもいちばん近いですよね それがこの4では1
0階から見下ろして 距離もいちばん遠いのかな
(しびる)>まず枠を作らなきゃいけないじゃん 描写限界って言え
ばいいのかな あとの3本はこの範囲内で起こる
(のりこ)>コンビニのアルバイトの彼氏 とその彼女 上空から観
察されてますね 以後この連鎖ですか
(しびる)>5以外はリンクさせた 追い掛けてるのは次の3までか
な 2は1と4に内包してるし
(のりこ)>それについてはそのお話のときにやりましょう で こ
の彼女は作家さんですか 描写内容からすると
(しびる)>ライターってくらいの設定だったかな
種別 連作系第29期 芳連作02
題名 『 5分の4 』
初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
1998年03月08日02時22分
注釈 行頭スペース+30W
+++++++++++++++++++++++++++++++
SUBJ:【芳連作】02 5分の4
ST V.4.4 SLBs Nobi-Standard
それほど芳しくもないのですが しかし 芳連作 #02(B群)
『 5分の4 』
作:しびる
その人に気付いたのはいつだったか 昼夜が逆転して数年 昼間
眠って夕闇迫る頃に起きる そんな暮らしのある地点で あたしは
その人の存在に気付いた FMラジオを聞きながら机に向かい 少
し飽いてベランダから下界を眺める その人は立っていた
深夜の街は人影もなく ネオンの喧噪は遥か遠く 真下に見える
のは街灯と信号とコンビニの照明 信用金庫の植え込みに沿って歩
道が続き マンションの寸前で南北道路と交差する その場所に
『たっだいま いやあ飲んだ飲んだ ただ酒ほど美味いものは』
『あ おかえりなさい なあに さちこ またたかり酒なの』
ベランダからぼんやり 専用のイスに腰掛けて手摺に頬杖を突い
て 今夜もあの人が見えるかなと 25時 玄関から賑やかな声
『だって勝負でしょ やりたいって思うなら たかられても当然』
『なんか身も蓋もない ああ ちょっと 触らないでよ』
振り返れば同居人 短大の頃からの付き合いで この部屋はあた
しの仕事場兼住居であると同時に 彼女の荷物置き場でもある 着
替えや貴重品 彼女はこの部屋を基地に街のどこかで暮らしている
『まーだこんな陰気な仕事をしてるの 月にいくら稼ぐわけ』
あたしの仕事机に向かい ぺらぺら原稿をめくって鼻で笑う 正
業に就く人間が たかり酒で酔いの回る彼女にバカにされる アリ
とキリギリスはお互い納得の上 さちこは虚勢で嘯くばかり
『食べて家賃払って映画見て服買って 定期と保険を積み立てるく
らいよ さちこに比べれば雀の涙 どうするの ウチで寝るの』
『ただいまって 言っただろうに まあいいや なにしてたわけ』
イスをくるりと回してベランダを後にする 女のあたしでもうう
むと唸るくらいの端正な顔立ち ソファーに深く沈み込み あたし
は慌てて原稿を整える 大股開きでショーツ丸見え 天井を眺めて
『やっぱりあれ 月のない夜は来るでしょ 泣き言なら聞くわよ』
『ただの息抜き 泣き言を人に話す趣味はないもの 大丈夫なの』
さちこはそのままの姿勢でソファーに仰け反る 彼女が誰よりも
繊細なのは知っている くるくる動かす瞳を見るうちに 不思議な
感覚が沸き上がってくる 向かい合って座り 膝を閉じさせる
『ぜんぜん大丈夫 好きなことしてるんだから ってことよ』
それ以上深く話すつもりもないだろうし 聞くつもりもない 沈
黙を埋める女性の声はラジオから それでは足りなくて なんとな
く浮かんできた話題で繋ぐ 意味も持たせず 立ち上がりながら
『コーヒーを入れるけれど さちこも飲むでしょ そうそう ただ
の息抜きってのは 下界を眺めてたの 水槽みたいなものね』
『はあん 下界で騒いでるあたしらは魚類か いい趣味じゃない』
10階建てのマンションの最上階 モヤの掛かった下界を眺める
と まるで街のすべてが水没したような錯覚 妙な距離感は車も人
も水棲生物のように感じさせる それぞれに生活があるなんて
『いい趣味でしょ 向こうの交差点から歩いてきた人間が ピコマ
ートに寄って大学に入っていくの 観察記録を付けようかしら』
『勝手に名前を付けたりしてさ それ面白いじゃない 悪趣味で』
スプーン一杯のインスタントコーヒー ポットの湯を注いでかき
混ぜて トレーに乗せてソファーに戻る 部屋の両端に配したスピ
ーカーから 昔熱中していた洋楽が流れる どこかに繋がった
『この時間になると誰も通らないのに はいこれ 決まって同じ時
間にやってくる人がいるのよ いつも同じ服で 下の交差点に』
『ありがと そうなると ペットみたいなものね あちっ』
信用金庫と大学があるだけで 夜間はまったく静かな通り たま
の歩行者もピコマートで引き返す 真下のコンビニは深夜の経営が
成り立っているのか 昼間こそ大学生が立ち寄りもするが
『だから見てたのよ 交差点から先 どこへ行くのかいつも見失う
から なにか気に掛かるのよね こーゆーのって ほら』
『趣味が違うでしょうに みんな同じだと思うのは間違い』
そうなのだ あの人を見付けてどれくらいになるか いつも点滅
信号の歩行者ボタンを押して 押さなくても車など通りもしないの
に 赤の点滅が赤に変わり そしていつも見失う なぜかいつも
『みんな気になるわよ 1時ちょっと過ぎ さちこ 今ならちょう
ど見れるかもしれないわね よしっ ほら立って ほらほら』
『あー揺するのは辞めてくれえ わかったわかった なんだかね』
なぜか共犯者が必要な気がして カップを握ったまま薄目のさち
この腕を掴む そしてそのまま引っ張ってベランダへ 月のない空
『あら 珍しくお客さんね 自転車の女の子じゃないわ』
『さすが詳しいじゃない このマンションの住人みたいね ふん』
たまにこの時間 自転車に乗った女の子が訪れる 今コンビニか
ら現れたのは別の女性 凄い勢いで足元に消えた おそらくこのマ
ンションに入ったのだろう 珍しいことだ そして視線を移すと
『ほらあそこ いるわ 点滅赤信号の下 さちこ 見えるでしょ』
『それよりもねえ あれはアルバイト君の彼女かな いいねえ若い
衆はこんな時間に あたしの人生の5分の4があんなだったらね』
さちこの人生の5分の4 彼女の20年間は家庭の事情で大変だ
ったらしい その後の5年間はこんな調子 その話題はとにかく
『たぶん中年の男の人だと思うけれど どう思う 木が邪魔で』
『どれ こっちからだとよく見えないわよ 人なんている』
身を乗りださないと見えない マンションの植樹が邪魔をするそ
の先に さちこはそれほど乗り気じゃないから おざなりに確認し
てコンビニ前の男女を眺めている 黒い服の人影が佇んでいる
『おっ チューするもんなあ もうばかばかしくなってきた』
『信号が変わったわよ なのに どうして渡らないのかしら』
自転車の女の子が凄い速度で走り去る あたしは見ていなかった
けれど もしキスするような関係なら 名残を惜しんでもよさそう
なもの 言い寄って逃げられた それが正解だと思う バイト君が
馴染みの客に声を掛けて振られた そんなところだろう
点滅赤信号が赤信号に変化する 今日こそは交差点を渡ってどこ
へ向かうのか確認しようと思ったのに 一向男性は渡る気配がない
身を乗りだせば既に人影はなく またもや見失ってしまった さち
こは鼻で笑って部屋に戻る なんだか釈然としない気分だけが残り
再び信号は点滅し始めた どうでもいいことだけれど
》 しびる 《
+++++++++++++++++++++++++++++++
(のりこ)>5分割の2です タイトルは4ですけど
(しびる)>決まりその1 本文に必ず『5分の某』を入れること
(のりこ)>順番にやればいいのに 1のときは就業時間 以後タイ
トルで話しますけど この4のときは同居の相方さちこ
ちゃんの人生 分割は時間・時間ときましたね
(しびる)>そのへんはなんでもいいんだけど いきなし核心だな
(のりこ)>例の交差点の男性ですか 1ではほぼ水平面で観察して
距離的にもいちばん近いですよね それがこの4では1
0階から見下ろして 距離もいちばん遠いのかな
(しびる)>まず枠を作らなきゃいけないじゃん 描写限界って言え
ばいいのかな あとの3本はこの範囲内で起こる
(のりこ)>コンビニのアルバイトの彼氏 とその彼女 上空から観
察されてますね 以後この連鎖ですか
(しびる)>5以外はリンクさせた 追い掛けてるのは次の3までか
な 2は1と4に内包してるし
(のりこ)>それについてはそのお話のときにやりましょう で こ
の彼女は作家さんですか 描写内容からすると
(しびる)>ライターってくらいの設定だったかな
- 2007-03/17 23:36
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