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編集会議 131


連作27 粋連作06 まかげ
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 種別 連作系第27期 粋連作06
 題名 『 まかげ 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年10月22日00時18分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【粋連作】06 まかげ

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 世態や人情に通じものわかりのよいこと 粋連作 #06(B群)
 



            『 まかげ 』


                        作:しびる





  塩気の足りない昼食を食べ残し きのう開封したポテチの袋を膝
 に乗せる 間仕切りのカーテンが風に揺れる 窓からは5月下旬の
 快晴の香り 遥か路上から女性の話し声 欠伸をして背伸び
  コンビニ袋にお菓子を詰め込んで 床に降り立ちスリッパを履く
 ベッドの傍らの時計を確認 午後1時15分 今日は何曜日だった
 か思いだせない カーディガンを羽織って 病室を後にした

 『おはよう 隣りのおばさんが屋上だろうって 泣いたか』
 『うん ちょっとだけ 3日も来ないんだもん ちょっと泣いた』
  ゆっくり歩いていって抱き付く じわりと涙が滲む いつものス
 ーツじゃなくて 上着だけ変な作業着 そうか仕事中なんだ
 『忙しくてな 毎日来てやれない 今も得意先周りの途中だしな』
 『わかってる 奥さんじゃないから仕事休めないよね うん』
  あたしがもし彼の奥さんだったら いやあ妻が入院してましてな
 んて理由で時間もできるのに あたしは別になんでもない女の子だ
 から 前はそんなに思ってなかったけど 奥さんもいいかな
 『で どんな感じだ うろうろしてるから順調なんだろ』
 『もう10日だもん たぶん予定どおり2週間で退院だって 血液
 検査の結果があしたにわかるから それで決まるって話 らしい』
  こんなに我慢できる人は珍しいですって お医者さんが驚くほど
 我慢した結果 虫垂炎が腹膜炎を併発して危ない状態だったらしい
 だって大袈裟に騒ぐのは格好悪いし そもそも病院は嫌いだし
 『そうか その話はお母さんに報告したのか 毎日電話してるか』
 『あんまりしてない むう いやらしい手だなあ いいけど』
  なんか真面目に話してるのに 彼の手は静かにあたしのお尻を触
 っていたりする その部分からじわじわと幸せが拡がる この頃な
 んだかんだでしてあげてないから きっと欲求不満だろうなあ
 『だってね 10時なんかお父さん達まだ仕事してるもん 昼間は
 忙しいからって邪険だし 心配じゃないのかな ちょっと寂しい』
 『そりゃ心配だろうさ ところで 誰もいないな ここ』
  おざなりに周囲を見渡し にやりと微笑む そんな彼の素振りを
 見て あたしは目をつぶって顎をあげる これくらいの慰めがなけ
 ればおさまらない パジャマにカーディガンの女の子と スーツに
 作業着のサラリーマン 快晴の下 病院の屋上 絵にならないか
 『ふう このまま退院しちゃいたいなあ 陰気だし退屈だし』
 『ふうむ できれば連れて帰りたいが あと少しの辛抱だからな』
  そのまま頭ごと抱き締められて あたしは作業着に向かって溜息
 会社を病欠は嬉しいけれど 彼と逢えずにパジャマで暮らす 看護
 婦さんは忙しくて長話はしてくれないし 同室は年配の人ばかり
 『退院したらさ とも君の部屋にいてもいいでしょ お母さん達も
 もう とも君のこと知ってるわけだし 別々は意味ないよ』
 『それもそうだな まあたぶん 俺がお前の交際相手だってことは
 普通の人ならわかるだろうな 認めるかどうかは別として』
  別に禁止じゃないけど その辺に関してうるさい両親だから 実
 はねえって告白が延び延びになったまま 緊急手術だって両親に電
 話したのは彼だから もう夜中だったし 普通ならわかる
 『今回の入院でね 考える時間がいっぱいあったから やっぱりあ
 たしは とも君ナシじゃ生きていけないらしいよ 本当だもん』
  バカ死んじゃえ別れるって喧嘩も何回かしたし あたしが謝った
 り彼が謝ったり そんなことをゆっくりと考えて かなり打算的な
 ことも それなりにいろいろと考えて それでもやはり なのだ
 『まあ 俺もそうかな もう2年くらいになるが 変わらないな』
 『でしょ でもねえ あたしってばちょっとだけ傷物だよ ほら』
  パジャマをめくってお腹を見せる おへそが隠れるくらいの白い
 ガーゼ 普通の盲腸の手術よりはちょっと大きめの傷跡 話題を詰
 め込むのが少し億劫になってはぐらかす あたしってば傷物だ
 『娘を傷物にしやがって 責任を取るんだろうな か それは』
 『あたり あたしってばさ とも君しか知らないもん』
  なんか面白い 責任を取るのは当然 あたしの初めては彼で そ
 のことについてならすべての責任がある 彼の手を引いてベンチへ
 『退院してもしばらくはダメなのか そのなんだ そればかりじゃ
 ないが 懐かしい臭いだなあ なんだか切なくなるよな』
 『変なとこの臭いを嗅がないのっ もう 先生に聞いとこうか』
  彼の頭をひざに乗せる 臭いを嗅がれて少しエッチなことを言わ
 れて あたしだって切なくなる たぶん退院すればすぐにでもでき
 るだろうけど 彼の頬を握って伸ばす そして溜息
 『あたしがずっと病院なら 我慢できなくて浮気するでしょ あた
 しがもし死んじゃったら 誰かほかの女の子と結婚する しない』
 『さあなあ ひててて 不安に思うなら そうなんだろ 気持ちい
 いから少しこのまま転がしていてくれないか この頃 疲れてる』
  20代の真ん中を折り返して数年 彼の表情にたまに過るこの感
 じは 電話しても帰ってない夜も多いし 部屋で待っていても先に
 寝ちゃうことがあるくらい あたしはゆっくりと彼の頭を抱える
 『うん こうしててあげる このまま会社休んじゃおうか』
 『そうだなあ ここでハイと答えれば きっと罠だな ううむ』
  なにか訳のわからないことを聞きながら 彼のざらざらした頬を
 撫でる あたしの言うなりに休んでくれる人も なによりも仕事を
 優先する人も あたしは子供じゃないから どちらも愛せる
 『バレちゃったか あと5分だけこうしててあげるから そしたら
 お仕事頑張ってきてね 泣くけど 来てくれるの待ってるから』
 『泣くのか さてと もう少しワガママに考えろ あまり腹にため
 込むと また手術ってことになるんじゃないか』
  もう少しごろごろしてればいいのに 彼はむっくと起き上がって
 背伸び あたしのお腹をそっと触って 訳のわからないことばかり
 『面会時間内に片せれば おやつと週刊誌を なんだその顔は』
 『ちょと怒ってる とも君がまた手術って言ったから あんんっ』

  あんなに大変な手術だったのに また手術しなきゃいけないなん
 て無神経だ 冗談にしても冗談になっていない そう思って頬を膨
 らませて怒った顔 腰に手を当てて完璧に怒った状態 その途端に
 彼に抱きかかえられた きっとなにかに興奮したのだ 変なの
  空はどこまでも青くて綺麗で あたしはお尻とか変なとことか触
 られながらにこにこしている 風が吹いてシーツがたなびく なん
 だか凄く奥さんになりたいなあと そんなこととかを考えてた







             》 しびる 《
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(のりこ)>こういうお話を読むごとに(以下略)
(しびる)>やっぱ病院ネタだな 病院の屋上はサイコーだな
(のりこ)>長いお付き合いですから理解してますけど やっぱしび
      さんの趣味はちょっとヘンですよ ふつう病院は苦しか
      ったり痛かったりするときの閉じこめられるところです
      し そうじゃなきゃそういう境遇のひとに面会するため
      に訪れるところでしょ 楽しい場所じゃないですよ
(しびる)>だろうな んじゃそゆことでいいや
(のりこ)>あらら(笑) 反論とかして盛り上げてくださいよ
(しびる)>ふつうはどうだとか言われてもなあ ふつうじゃねーし
(のりこ)>それを仰ればおしまいなんですけどね さて内容に戻し
      ますけど なんとも平和なお話ですね 盲腸ですか
(しびる)>盲腸くらいがちょうどいいよな あんまし後遺症がある
      のとか慢性疾患とか ケガでもちょっと仕切りが違って
      くるし カゼをこじらせても安静にしなきゃいかんし
(のりこ)>結婚したくなる瞬間シリーズでもありますね
(しびる)>そういう括りもあるかな
連作27 粋連作05 ぷれ・ななめならずも 5
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 種別 連作系第27期 粋連作05
 題名 『 ぷれ・ななめならずも 5 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年10月18日02時29分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【粋連作】05 ぷれ・ななめ 5

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 世態や人情に通じものわかりのよいこと 粋連作 #05(A群)
 



        『 ぷれ・ななめならずも 5 』


                        作:しびる





  そのままダラダラと4時まで机に向かっていた ななみの仕事は
 デスクワークが半分にフィールドワークが半分 今日は区役所や各
 種公益団体とのスケジュール調整 それ以外なら番組の尺計算と原
 稿の校正 電話と鉛筆があればできる仕事である
  CBSのディレクターには3種類の人間がいる まずは専従に採
 用された正社員 ななみのようにアナウンサー候補として試用され
 ている派遣社員 それ以外は少し複雑で CBSが提携している中
 央新聞からの出向社員 彼らは大抵短期間の出向で 基本的にテレ
 ビ局は低いメディアだと考えている節がある また出向社員は報道
 部に配属されるのが常 すべてななみの同僚になる

 『小宮さん この原稿は小宮さんが書いたものですよね』
 『なんですか どこか漢字が間違ってましたっけ おかしいなあ』
  先程アナウンス部から返品された原稿である 持ってきたのは鹿
 島ともみアナ ななみの頭上に降り注いだ原稿だ ちなみに話して
 いる相手は報道部のディレクター 中央新聞から出向している小宮
 『間違ってはいませんよ ただ句点の記号 これは辞めてください
 って苦情を聞いています それに他にも色々と』
 『ああっと 大泉さんはアナウンス部でしたっけ 知らなかった』
  ななみの基本は喋る仕事だから アナウンサーの気持ちも良くわ
 かるのだ 小宮はその辺に敏感で 故意に両手を広げて驚いてみせ
 る 話題中の句点の記号は平仮名のくの字 新聞記者は句点の存在
 を際立たせるために 句点の丸をくの字で囲んだりする これが速
 読するときに非常に邪魔になるのだ
 『そんな問題じゃなくて 原稿は電波に乗せて完成ですから』
 『派遣さんに注意されることじゃないよね 気になるなら消しとい
 てよ 相互に校正するのがCBS報道部の習慣でしょ ねえ』
 『わっかりましたっ それじゃ書き直して提出しておきます』
  言い放ってから失敗に気付いたらしい しかし既に時は遅く 小
 宮はななみを一瞥して小さく微笑む こんな調子で仕事が溜まるの
 だ どんな仕事でも短気は損気の大原則 なかなかに難しい
 『悪いですねえ まだ尺合わせもなにもしてませんから なんか面
 倒なことを頼むカタチになってしまって いや 助かりますよ』
 『むうん 全部あたしがやります! 気にしないでください!』
  原稿を握り締めてイライラ それでもCBSの仕事は ななみの
 夢に最も近いところにある こんなことで叫んでいる場合じゃない
 最終目標はキー局ゴールデンタイムのメインキャスター それまで
 はどんな仕事もこなすのみ 泣き言は不可 とにかく頑張れ
 『あ ななみちゃん 事務所からファックスが届いてたけれど 4
 区での文化講演会 あれって ななみちゃんの仕事だったわけ』
 『うんと その予定だったわけですけれど 流れちゃって』
  自分の机に戻ると伊藤が現れた 手に持つのは事務所からのファ
 ックスだろう どんな用件で送ってきたのか
 『小宮君の担当だったのよ 流れたのは聞いてるけれど あれらし
 いわね 講演者の静原さん やっぱり通り魔かしら 怖いわね』
 『静原さんになにか いや あたしはなにも聞いてないんですよ』
  ななみは静原の顔すら知らない 伊藤は訳知り話をしているのだ
 が ななみにすれば圧倒的な情報不足 それに死体の件もある 伊
 藤の手からファックス用紙をひったくり 広げて読んでみる
 『さっき他局のニュースで流れてたわよ 自宅前で背中からぶすり
 白いスーツが血で真っ赤に染まってたって やだ想像しちゃう』
 『松岡君からだな 事件発生は ふうむ 午前11時』
  自宅がどこかは判明しないが ななみが死体を発見したのは正午
 過ぎ やはりあれは錯覚か思い違い どのような経緯か静原婦人は
 刺殺された いやもう既に刺殺されてしまっていた スタッフ控え
 室に横たわっていた死体 ななみは記憶と情報の擦り合わせにうう
 むと唸ってみたが 考えても無駄と即決 気持ちのいい性格だ
 『それはそうと イトーさん ウチでは通り魔は取材しないのです
 か 季節の話題じゃないですが 旬の話題ですよね』
 『そんなのダメダメ 怖い話は御法度なのよ それにウチが取材し
 なくても共同通信からの配信ニュースがあるわね それを流せばい
 いじゃない 例の文字放送枠で 怖くないようにねえ』
  伊藤は文字放送と言っているが この場合はキー局の文字放送の
 ような放送電波の間隙を利用したものではなくて 午前と午後の2
 回 番組の合間に流している文字ニュースのこと 静かな音楽に合
 わせてニュース原稿が画面をスクロールする淡白な番組である
 『やっぱり怖いのはダメですか そうですよね いやいや』
 『局の方針だもの 地域に密着した放送局なのよねえ まったく』
  テレビ局の報道部に属しているのだから 伊藤にもそれなりの野
 望があったであろうに 会話のまったくの部分で少し悪態が混じる
 ななみは少し安心したりもする 局の方針を憂いている人間が少し
 でも残っているうちは まだまだどうにかなる可能性があるのだ
 『まあ 6区内で事件が起きればね CBSとしても無視するって
 わけにもいかないかしら 犯人が6区にいたとか ならね』
 『どうでしょうねえ やたらと平和な区ですから 6区ってこんな
 に広いのに あまり大事件って起きませんよね いいですけど』
  6区は周辺各区の中でもかなり広い方だ 8割以上が住宅地 そ
 れも第1種住居専用地域 CBS社屋はぎりぎり隣接する特定街区
 に含まれる 6区は特定用途地区が混在している それぞれに様々
 ないろいろがありそうなのに わりと平和だったりする なぜか
 『そうそうそれでね ななみちゃん 編成部との合同ミーティング
 が決定になったから 出欠を取りに回ってるわけ 大丈夫でしょ』
 『ええ それはもう 大喜びで出席のココロですよ あはははは』

  合同ミーティングは竹村が話していた宴会のことだ ただの宴会
 と表現すればいいものを この辺りが伊東の拘り どちらでもいい
 ことに生真面目な符丁を割り振って 誰になにを隠すつもりか
  それはとにかく ななみはなにかTPOが曖昧になって CBS
 では見せないような馬鹿笑い それを見て伊藤がニヤリ どうでも
 いいのだが こうしているうちにも原稿の締切りが迫っているので
 あった 確か5時までに仕上げなければいけない らしい






             》 しびる 《
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(のりこ)>ぷれななめの5です ななみちゃん デスクワークです
(しびる)>他人称はさ 気になり始めるとやたら気になるよな お
      前誰やねん! とかってツッコミが常に頭のハシに
(のりこ)>まあそうですよね でもこんなもんじゃないんですか
(しびる)>こんなもんなんだろうけど やっぱし1人称が好みだな
(のりこ)>それは個人の趣味ですし
連作27 粋連作04 2週間 (7)
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 種別 連作系第27期 粋連作04
 題名 『 2週間 (7) 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年10月16日02時02分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【粋連作】04 2週間 (7)

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 世態や人情に通じものわかりのよいこと 粋連作 #04(B群)
 



          『 2週間 (7) 』


                        作:しびる





  仕事は7時に終わる そうねえ7時まで仕事だから7時30分く
 らいにどうかしら なんて言い回しは少し憧れていたのだ 特にサ
 ークルの類には参加していないから アルバイトを始めるまでは9
 時5時の定時生活 それはまあそれでOLみたいだと感じなくはな
 いけれど 学生らしい忙しさとか不健全な感じ わからない人に説
 明は難しい あたしはほら派手なことは苦手だから
  で それ式で約束 新軌道本線のターミナル駅のすぐ近く 相手
 は親友の山瀬 やっぱり食べ物が美味しくなくちゃダメだから

 『おうおう 終わったかね さあさすぐに座りな お疲れさん』
 『ふう なんかくたくた 珍しいじゃない 先に来てるだなんて』
  今日も4時間きっちり労働 今期は授業を操作して4講目以降は
 登録講義がない デュランタの募集を発見するまでは もう少し遅
 い時間に仕事かなあと計画していたけれど それはそれ臨機応変
 『ああん いやさっき来たとこ 乾杯ってもちかこは飲まないか』
 『うん でもちょっとだけ飲もうかな なにか注文したの』
  店の名前はカリョウビンガ茶屋 普通は省略してびんが茶屋と呼
 んでいる なんでも店内中央の巨大な鳥人間 あれがそんな名前の
 生物らしい 歌声関係の神様だか仏様だか 詳しくは知らない
 『キムチピザとピリ辛鶏唐 それとなんだっけ そうそう山菜わさ
 び漬け これが最近のヒットだよね ご飯が欲しくなるもの』
 『ふあ 辛いものばかりじゃない 山瀬ねえ 味覚障害になるよ』
  そう話しているうちに最初の皿が運ばれてきた どうやらこれは
 ピリ辛鶏唐 少し赤味がかった鶏肉の唐揚げ キャベツを敷いてパ
 セリとレモンを添えて こうばしい香りが食欲をそそる
 『そんなの大袈裟 チューハイをふたつ あたしはカルピスで ち
 かこは何味にする それと タバスコがあったら持ってきてね』
 『なあにこの辛そうな食べ物にタバスコを掛けるわけ うんと あ
 たしはライムにするわ ネーミングに親近感があるじゃない』
  腕時計は午後7時45分 6時50分くらいに奥さんが来られて
 仕事は7時ちょうどに終了した それから着替えてアーケード商店
 街を通り抜けて ターミナルを回り込んでびんが茶屋
 『なんだっけナントカライムよね あれでしょ 飲み屋かなんかで
 昼間締めとくのがもったいないから喫茶店ってクチの』
  続いて山菜のわさび漬け 小鉢に入った鴬色のどろどろした物体
 チューハイも運ばれてきて乾杯 ご苦労さまとか言ってみたりする
 『ううん 本当に普通の喫茶店 朝は7時くらいから開いてるの』
 『ふうん 名前がね そんな感じじゃない ちかこも食べなよ』
  あたしもそんなふうに思っていたから 山瀬の意見も理解できる
 デュランタライムってのは入口の脇に密生している葉っぱの名前ら
 しい 薄緑色の綺麗な観葉植物 奥さんのお気に入りだとか
 『うん お腹ぺこぺこ 名物の焼きおにぎりを注文しよう 夕食を
 食べて帰ってもいいらしいけど 面倒だから遠慮してるの』
 『そんなの 遠慮しなくてもいいじゃない おにぎりふたーっ』
  それほど飲んでないのに山瀬の声は少し大きい いちいち呼びつ
 けて注文するのが面倒らしい カウンターの向こうからハッピ姿の
 店員さんが大声で返事 遠くでは賑やかな宴会がそこかしこで
 『まあね その場の空気ってあるのよ 店長さんはあれだけど 奥
 さんは無駄を省いてって感じの人だから すぐに掃除しちゃうし』
 『大変なのねえ なんかわかんないけど まあ頑張んなさい』
  本当はそれほどでもない でも話題の進め方として愚痴だから少
 々は過激に表現する 奥さんも実に優しい人 ちょっと反省する
 『で そんな色気のない話はいいのよ ちかこ 女ふたりがこうし
 てお酒を飲んで話してるわけ どうなってるのか白状しろ ほら』
 『もう酔ってるの どうってなあに なにもないじゃない』
  やって来たキムチピザを小皿に取り分ける 山瀬はバカみたいに
 タバスコを振りかけている ただでさえ赤いピザが更に真っ赤
 『彼よ 石原君 あーたしの記憶が確かならあ 彼は去年の学祭で
 ナントカってバンドのキーボード担当だったわねえ 知ってた』
 『知らなかった 山瀬の記憶力は凄いね たまにいい加減だけど』
  かなりいい加減だ 情報のすべてが錯覚の場合が多い 普段なら
 容赦なく突っ込むところだけれど この場合は放置するのが正解
 『いやいや 今回はきちんと裏を取った 西村のよっちゃんの友達
 が中執の委員でね たぶんそうじゃないかってことらしい』
 『ちょっと あたしの彼氏だとかって話してないでしょうね』
  一昨日だったか図書館での事件 事件ってのもあれだけど それ
 から妙に静かだと思えば こんなことの裏を取ってもらわなくても
 水面下では凄い噂が拡がっているのかも 背筋が寒くなる
 『違うの あの感じはそうでしょ 今は友達がいるからあとで連絡
 するわ ああなんか買っていくよ うんっ って感じたけど』
 『はあ 山瀬の脳味噌は腐ってるわ 完全に かわいそうだけど』
  変な声色を使ってひとり芝居 妄想するのは勝手だけど 石原さ
 んとそんな関係になるわけがない 昨日あたしは見てしまったのだ
 芯の強そうなかわいい女の子 ある意味お似合いだと思う
 『どーして ちっとは色気のある暮らしもしなさいよ これは神様
 が与えてくださったチャンスよ これを逃すと一生後悔するわね』
  割り箸であたしを指さす 山瀬は楽しそうに笑っているかと思い
 きや 急に真顔になって説教する 言い返す言葉を選びながらチュ
 ーハイを少し飲む あまり美味しくないから烏龍茶でも注文しよう
 『ちかこ 聞いてるの おにぎり食べてる場合じゃないでしょ』
 『でもねえ 石原さんには彼女がいるの いなくてもどうってこと
 はないけれど だから可能性はないわけ あっ 烏龍茶ください』

  山瀬は聞いた途端に割り箸を放り投げる そして片手をひらひら
 させて舌打ち そんなに残念がらなくてもいいのに そもそもどう
 こうしようってことじゃないし 最初からどうにかなっている話で
 もない どうせ全部が興味本意で からかっているだけなのに
  それから少し飲んで食べて 電車に乗ったのが9時くらいだった
 かな そういえば今日でバイトも一週間 もう半分済んじゃったの
 かと 帰りの電車で考えたりした 考えたのはそれだけ






             》 しびる 《
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(のりこ)>2週間の7です 今回は反省会編ですね
(しびる)>そゆこと この山瀬ってのは使えるよな あんましキャ
      ラを増やさずに じわりと進めるのが最善だな
(のりこ)>いわゆるネタ進行というやつですね その逆がキャラ進
      行 ホントはその中間がベストなんでしょうが
(しびる)>いやネタ偏重がベスト キャラで追い掛けるのは間違い
(のりこ)>いくらかは必要でしょ?
(しびる)>究極はふたりくらいで延々やるのが最高な
(のりこ)>そんな辛気くさいの さすがにダメでしょ(苦笑)
(しびる)>ウチの事務所なんてまさにそうじゃん
連作27 粋連作03 きつねのしっぽ
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 種別 連作系第27期 粋連作03
 題名 『 きつねのしっぽ 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年10月14日02時41分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【粋連作】03 きつねのしっぽ

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 世態や人情に通じものわかりのよいこと 粋連作 #03(B群)
 



         『 きつねのしっぽ 』


                        作:しびる





  入口から続く鏡張りの壁 リノリュウムの床 天井にも鏡 最小
 限の照明を複雑に反射させて 観葉植物を過ぎれば店内 かすかに
 聞こえてくるピアノは夜想曲 静かなざわめきは数人の客 普段な
 らひとりで来るこの場所に待ち合わせ もう既に座っていた
  カウンターの端に水割りのグラス 沈んだ色のスーツに短い頭髪
 バーテンダーに小さく会釈して 午後9時13分 隣に座った

 『いや悪かった 噂で聞いてね まさか君がFBになってたとは』
 『面白いことを思い付くものだね まあ 自業自得だよ』
  大学では同じ学部だった ゼミの知り合いの友人で いくつかの
 講義が同じだったか 飲み会で数回同席したことがある その程度
 『キツイなあ そうとわかっていれば操作できたのに 譲るよ』
 『ルール違反はいけない それをすればすべてが破綻する だろ』
  ルールは俺と数人の友人が決めたもの 参加者全員が納得ずくの
 マルチ商法 昔ならネズミ講と呼ばれたもの 1次会員から4次会
 員まで 順にニンジン ウサギ キツネ オオカミ ネズミ算だ
 『いや受け取って欲しいな 君のような善人を巻き込んで このア
 ドレス表を使えば 収支トントンに持っていける 罪滅ぼしだ』
  いつも絶やさぬ笑顔 騙されることはあっても騙す方には決して
 ならないだろうと そう思わせる人懐っこい微笑み 今だって恨み
 言のひとつも言いたくなるだろう状況なのに なのに笑っている
 『ダメだよ それよりも懐かしいよね 卒業以来だから 6年くら
 いになるのかな ここに来たのは 逢って話がしたかっただけさ』
 『そうかい まあ下世話な話題は後にするか じゃあ乾杯だ』
  折り良く運ばれたグラスを僅かに掲げ なにに乾杯しようかと躊
 躇した 数年来交流もなく 彼がなにを生業にしているのかさえ知
 らなかった ましてや友情をクチにするほどの付き合いでもない
 『変わらぬ友情に乾杯かな 電話を貰って嬉しかったよ』
 『はは こっちは悪酔いしそうだよ やはり謝らせてもらう その
 なんてのかな 悪かった これはズルじゃない 解約手続きだと』
  頭を下げそう言って 先程引っ込めた書類を指で押しやる FB
 はキツネのシッポ ウルフシステムは4次会員つまり初期幹部だけ
 が儲かる仕組み 破綻するまでニンジンとキツネを繰り返す 破綻
 者を会員間ではFBと呼ぶ 投資額はそのままゲームの参加費だ
 『いいよ 興奮して楽しかったからね 恨みっこなしさ』
 『どうしてそう君は いや 罵ってくれた方が気が楽だな』
  微笑まれて恐縮する 書類にはウサギ5匹の住所と氏名 それら
 には最低でも数本から数十本のニンジンが付いている 3回転もさ
 せればマンションが買える 仮にも参加者なら拒むはずはない
 『少々高くついたけれど ゲームじゃないか 騙そうが脅そうが結
 局は満月の回数次第 腕力と財力と 気力が尽きれば終わりさ』
 『ごもっとも 笑って済ませてくれるのなら まあ いいか』
  人懐っこい笑顔 参加者全員を騙して財を築く 欲に眩んだ破産
 者には今更の麻痺も この笑顔には胸が疼く どうせ誰かに騙され
 たか脅されたか 金で解決する方法は常套手段だけれども
 『事務の仕事をしてるんだって 名簿にはそんなふうに書いてあっ
 たけれど 確かナントカ調査事務所 探偵社かなにかかい』
 『そう 個人評価専門の 世間のリストラブームで繁盛してるよ』
  なるほど新規加入者を探すのには抜群の職場だ その辺りが深入
 りの原因だと直感した しかしそううまくもいくまい 社員をクビ
 にするのに他人の力を借りるような会社の その社員 財力だって
 たかが知れているだろう 投資話にも乗れないような人間達だ
 『羨ましいねえ なら高給取りだ 痛くもない金額だったかな』
 『いや 貯金も前借りの退職金も全部注ぎ込んだよ システムを理
 解するまでに時間が掛かったからね でもまあ いいさ』
  グラスの氷が音を立てて 楽しそうに話す彼の顔を横目で眺める
 親指と人差指 そして親指と中指 順に合わせてゆくのが癖らしい
 小指まで合わせて繰り返す 静かな音楽にリズムが重なる
 『システムを理解する いや失礼かと思うけれど 凄く単純だろ』
 『うん 会員のアドレスを順に売買する仕組み 何十分の一かの確
 率でオオカミ会員になれば無限保障 よくできたシステムだよ』
  本当によくできている ただキツネは永遠にオオカミにはなれな
 い 満月が何回訪れようとも オオカミになるのは仕込んだサクラ
 だけ 目先の転売による小銭が視界を曇らせる いずれ破綻する
 『キツネのしっぽってのは センスのいいネーミングだと思ったよ
 全員が誰かを騙して儲けていると思ってる それが安全装置だ』
 『話の意味が理解できないな FBには気の毒だと思うけれど こ
 のシステムにリスクは不可欠 有限連鎖経済学ってやつさ』
  無限に会員を増やさなければならないネズミ講とは違い 有限連
 鎖理論は食物連鎖が基本になっている 閉鎖した環境で誰ひとり肉
 体を酷使せずに富を得る 今はその前段階 楽園はすぐそこだ
 『難解な解説で煙に巻く 優越感で資金を吸い上げて 罪悪感で拘
 束する 劣等感を羞恥心に置換させれば完成 素晴らしいねえ』
 『あははは 詐欺じゃないよ 少し誤解があるみたいだね このア
 ドレス表はここに忘れておくかな また電話するよ じゃあ』
  雲行きが怪しい 単純に好意で出向いたが なにがどうあれ同じ
 ことか 誰だって昔のままではないらしい この表を手渡して解決
 する それ以上のこととなれば こちらも素人ではない
 『いや ゲームだからね これは受け取れないよ 今日は逢って話
 がしたかっただけだから ああそうそう 名刺を渡しておこうか』
 『なにを今更 ああん この宗教法人ってのは もしかして』
  なにを今更の名刺交換 しかし手渡された名刺には聞いたことが
 あるようなないような名前の宗教法人 肩書きはどこぞの支部長に
 なっている それですべてが理解できた
 『なるほど 憎めない笑顔の秘密か かなり修行してるんだろう』
 『まだまださ 君のシステムと同じ まあキツネじゃないけどね』

  名刺を裏返しながらタバコに火をつけた ゆっくり煙を吐きなが
 ら慎重に単語を選ぶ どんな体裁でも組織は同じ 要は集金能力が
 ものを言う 納得ずくで参加して いつでも楽園はすぐそこだ
  静かなピアノは夜想曲 鏡張りの壁に僅かな照明が複雑に反射す
 る 彼の隣に座り 午後9時40分 咳払いをひとつ









             》 しびる 《
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(のりこ)>えーっと 1人称の彼はマルチの立ち上げメンバーなん
      ですね 待ち合わせをしている相手は昔の知り合いでそ
      の参加者 どういう経緯か知りませんけど 騙されて入
      会した昔の知り合いをフォローするための会談ですね
(しびる)>簡単に言うとそうかな なんか新しい仕組みってないか
      なと考えてたことがあって 棄てるのももったいないか
      ら使ってみた ってのが企画意図だったかな
(のりこ)>新しいマルチ商法を考えてたんですか?
(しびる)>うん 破綻要因を順に潰してゆけば かなり長期間回転
      する方法があるんじゃないかと思ったんだけど
(のりこ)>それはなんですか 犯罪じゃないんですか?
(しびる)>頭の中で考えるだけなら自由だろ 実際にやるわけない
      じゃん サスペンスドラマを企画したディレクターは逮
      捕されるのか? なんでも考えて損はないじゃん?
(のりこ)>なんとまあヨコシマな夢想でしょう もっと健全なー
(しびる)>うるせーな 想像くらい好きにさせろよ
連作27 粋連作02 2週間 (6)
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 種別 連作系第27期 粋連作02
 題名 『 2週間 (6) 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年10月08日23時04分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【粋連作】02 2週間 (6)

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 世態や人情に通じものわかりのよいこと 粋連作 #02(B群)
 



          『 2週間 (6) 』


                        作:しびる





  今日は最初から混雑していた 店長さんに聞けば水曜日はいつも
 混雑するらしい しかしそれでもウチの大学の学生さんじゃなくて
 隣の証券会社の後ろにある生花市場の人達や 商店街のお客さんの
 類 水曜日には生花市場の大きな市が開かれるのと 商店街のアー
 ケード側の特売日が重なる 商店街の石畳側の特売日はきのうだっ
 たけれども 火曜日はそれほど混雑しない その意味はとにかくで
  あたしはいつもどおり3時10分前に入って すぐに身支度を整
 えて石原さんと交代 きのうから石原さんは少し元気がないみたい
 でも なにか気紛れそうな人だから 構わないで普通に挨拶だけだ

 『ああ ありがとう ちかちゃん よね だいぶ慣れたじゃない』
 『えっはい ありがとうございます でもまだ失敗が多いですよ』
  女性のお客さん 年齢はあたしのお母さんくらい 石畳商店街の
 デュランタと同じ側にブティックを経営しているって聞いた この
 バイトを始めた最初の日にやってきて 今日が2回目だったりする
 『いやいや ちかちゃんは頑張ってくれるよ はいこれ みえちゃ
 んのトースト でさ みのるちゃんはどうなの 病院の帰りだろ』
 『うん ああ ガンじゃないから死なないんじゃない 病人根性っ
 ていうの あーだこーだうるさくって 元気だから退院させるわ』
  お客さんの大半は近所の人 この喫茶店がいつから営業してるの
 か聞いたことがないけれど みんな大抵数十年来の知り合いって感
 じ すぐに会話が濃くなるから フェイドアウトの間合いが難しい
 『みのるちゃんも大変だねえ 大変なのはみえちゃんもか 付き添
 いやってるときは 店の方は閉めてるんだろ あ いらっしゃい』
 『そうなのよ でね相談なんだけど また帰ってくるんでしょ あ
 さみちゃん ちかちゃんはどうなの 次の仕事は決まってるわけ』
  ドアのカウベルが鳴ってお客さん店長さんはそちらに会釈して
 みえさんはあたしに向き直る すぐに水とおしぼりなのに 変な話
 を急に聞かされても とっさに どちらともつかない曖昧な感じに
 『ああっと いやそれはまだ いらっしゃいませ なんですけど』
 『待ち合わせをしているのですが ここデュランタさんですよね』
  店内にはお客さんが5人 みえさん以外の4人はボックス席とカ
 ンターに点在状態 週刊誌を読む人 新聞を読む人 おそらく全員
 が常連さん みんなそれぞれになにかを眺めて アクティブだった
 のはあたしとみえさんだけ 店長さんは不思議な抜け方の人なのだ
 『そうだけど 間違ってないよ ちかちゃん オーダーをお願い』
 『ならウチに来てくれないかしら どう 時給はここと同じでね』
  はあと生返事をしてトレーを抱える 水とおしぼりを急いで用意
 して振り返る やってきたのは学生風の女性 観葉植物だらけの喫
 茶店に絵になりそうなかわいい姿 なのにミスマッチなのはなぜか
 『ええっと お好きな席にどうぞ あの ご注文をお願いします』
 『じゃあコーヒーを うんと モカブレンドで 来てないのかあ』
  お客さんの平均年齢が高いのが原因 パキラの鉢植えの隣に座る
 女性を眺めてしみじみ思う 周囲を見渡している彼女は あたしが
 ウエイトレスをしていなければどう感じるだろう もしも石原さん
 なんかがやってきて 店長さんや他のお客さんがこの調子だったら
 『はい モカブレンドですね オーダー通します モカホットで』
 『うんうん ちかちゃん いい感じじゃないの ねえ 店長さん』
  みえさんはどこまでが冗談の人だろう 店長さんはホアともフン
 ガともつかない返事 あたしはもう慣れちゃったけど 件の彼女は
 そわそわと時計を眺めている 壁の時計は午後4時5分 なるほど
 『あさみちゃんと同じタイプだよね ウチはいい娘しか採らないか
 ら あれだよ そこの大学の学生課 みえちゃんも話してみたら』
 『ああそうなの でも手続きが面倒だって聞いたわよ 労規や労災
 とかって うるさいらしいじゃない 人も選べないのよね ねえ』
 『あたしはそちらの方は知りません 条件の詳しいことはどうも』
  大学と事業所の手続きなんて知らない 大学の関係者はあたしひ
 とりだから なにかあたしが大学側の代表みたいに質問される こ
 の感じは下宿でも同じ おばさんはあたしが学生の代表みたいに思
 っているらしくて ひどいときには 中高生の意見まで求められる
 『そりゃそうだ ほいモカ上がり それほど面倒でもないけどね』
 『まあどちらでも ちかちゃんが来てくれれば関係ないもの 仕事
 は簡単なのよ 旦那はしばらくダメだから そう 週に4日程度』
  勝手に話が展開している みえさんはトーストをかじりながら喋
 り続けている 雇用条件やなにかより この人とつき合っていかな
 くちゃいけないことに億劫さを感じたりする とにかく生返事だけ
 『どうぞモカブレンドです ごゆっくり あっ えっとお釣りを』
  コーヒーカップをテーブルに置く 手付かずのグラスを少し脇に
 退けてレシートをそっと その上にじゃらじゃらと小銭 見ればニ
 ッコリ微笑んで 瞬間お釣りと言ったけれど 小銭に釣りは不要だ
 『ちょうどあります お釣りはいらないでしょうが なら確認を』
 『ああいや お預かりします えっと モカホットを頂きました』
  小銭を集めて慌ててフォロー しかし数日前の失敗も頭を過った
 りするから どうせ数えないなら 速攻で店長さんにバトンタッチ
 『ほい ありがとうございます 300の500の50の80ね』
  受け取って店長さんはすぐレジへ その女性のお客さんは熱いコ
 ーヒーを一気飲み お金も先に払っちゃうし 壁の時計は4時9分
 『でね ちかちゃん 話の続きだけど 即答しなくていいから考え
 てみてよね まあウチの旦那が死ぬか退院するまでのことだから』
 『みえちゃんはキツイな みのるちゃんはそんなに あ どうも』
  やってきて5分間 その間コーヒー待ちが4分程度 ふんと溜息
 をついて 女性はバッグを持って立ち上がる そしてドアへと歩く
 『ありがとうございました なんだか せっかちな女の子だねえ』
 『どうせ男と待ち合わせでしょ あんなのと付き合うと大変よね』

  からころとカウベルを鳴らしてドアが閉じる それと同時に店長
 さんとみえさんの批評 おそらく待ち合わせは午後4時だろうから
 5分しか待てなかったってことになる なら相手は女の子じゃない
 女の子同士でこんな不義理なことは普通はしない あたしならそう
  なんてことをみんな考えていたそのとき ドアの向こうに掛けて
 くる人影 これはきっと相手の男性だと思ったら その人影がこち
 らを向いて驚いた なんとまあ その男の人は石原さんだったのだ









             》 しびる 《
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(のりこ)>2週間の6です 石原くん関係で動きアリですね
(しびる)>メインに持ってくるよりはちょい外した方がいいだろう
      と思って しかし頭のブティック屋の部分は重いか?
(のりこ)>みえこさんとの会話? あれはあれでいいんじゃないで
      すかね あの彼女だか彼氏だかの登場があまり唐突すぎ
      るのもヘンですし このくらいずらしてふつうでしょ
(しびる)>ならいいんだけど たまに冗長になるからな
連作27 粋連作01 愛しき
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 種別 連作系第27期 粋連作01
 題名 『 愛しき 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年10月04日02時51分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【粋連作】01 愛しき

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 世態や人情に通じものわかりのよいこと 粋連作 #01(B群)
 



           『 愛しき 』


                        作:しびる





  朝食の片付けをしながら洗濯機をまわす 昔は分けて洗っていた
 けれど この最近は面倒を避けて全部放り込む 旦那の下着とあた
 しのパジャマ 娘の服もごちゃ混ぜに うーんって時には洗剤を増
 やしてOK 実家の母親に見せると叱られるだろうと ふと思う
  掃除機を掛けている最中に洗濯機のブザー 脱水の終了で少しは
 静かになる 浴室に設置するはずの洗濯機はなぜかベランダに そ
 うじゃなきゃもう1個はプランターが置けたのに 悔しい限り

 『おかあさん スケチブックがなくなった なんか紙 今すぐに』
 『うん みさちゃん どしたの おかあさんは忙しいからね』
  洗濯物を干すのはベランダだから 確かに効率はいいけれど そ
 れでもなんかベランダに洗濯機は貧乏臭い 物干竿に旦那のTシャ
 ツを通しながら欠伸 エプロンを引っ張るのは娘 今年で4歳
 『いーますうぐっ おかあさん もうもう 後回しはいけません』
 『後回しじゃないでしょ おかあさんはお仕事 みさちゃんは遊ん
 でいるんでしょ もうちょっと待ちなさい 待てるでしょ』
  今すぐにも後回しはいけませんも あたしが娘に話している台詞
 子供ってこんなもの 言葉も身振りも考え方も すべて真似して大
 きくなる そう考える前は苛々してた それだけのことなのにね
 『待てないもん 今かかないと忘れちゃうもん はあやあくう』
  引っ張るエプロンに体重を掛けられて あたしは少しよろめいて
 しまう 瞬間ハッとして 物干竿を慌てて掴む いくつかの洗濯物
 がベランダに落ち もう片方の手で窓枠を探り当てた
 『ちょっと 危ないじゃない みさちゃん 手を放しなさいって』
  振り返りながら睨んでしまった 娘は声に驚いて手を放しそのま
 ま床にしりもち それほど痛くもなかっただろうに表情を歪め 大
 きく息を吸う たっぷり3秒間吸い込んで そして泣いてしまった
 『ふあああああん わあああん いたああいいいいひいいい』
 『みさちゃんが悪いのよ 泣いたって おかあさんは知りません』
  朝から掃除洗濯と 少し構ってやらなければこの有り様だ 甘え
 させてもらうために泣く 泣く理由のために痛がる 構っていても
 切りがない これくらいならすぐに飽きて泣き止むだろう
 『いたいいたいいたいよおおおう おかあさんおかあさん』
 『痛くないでしょ そうやって泣いてなさい 洗濯のやり直しね』
  あたしの下着類が主な被害者 旦那のジーンズくらいならそのま
 ま干したのに さすがに下着はそうもいかないか 手足を振り回し
 て暴れる娘を後目にのろのろ拾い上げる まったく 内弁慶な娘
 『やあああん うひっく やんぐっ おかっ おかあっさん』
 『ほうら みさちゃんは泣くからシャックリが止まらないでしょ』
  起き上がってしゃくりあげている この子はすぐにシャックリが
 止まらなくなる 自分でも泣くのがおかしいと思ったのか 無理に
 泣き止もうとしてシャックリが加速する あたしも少し折れる
 『はいはい みさちゃんはね もう4歳なんだからしっかりしなさ
 い ほうら深呼吸して 喋らなくてもいいから ゆっくりね』
 『おかっおかあさん みさっみさちゃんっは ねえっ ひっく』
  しゃがみ込んで娘を抱き抱える 背中を叩いて深呼吸 この子は
 他の子供よりも心の線が細い それはあたしか旦那の隠れた資質だ
 ろうけど 本当はあたしの遺伝だってことは知っている
 『喋らなくてもいいの もう泣かなくてもいいから ゆっくり』
  娘は小さく頷いて そしてゆっくり深呼吸 背中から拡がる変な
 痙攣が静まって 娘があたしの肩に噛み付いた もう冗談
 『こおら おかあさんを食べるんじゃないの さっき朝御飯は食べ
 たでしょ お昼まで我慢しなさい みさちゃんも食べちゃおう』
 『きゃああ くすぐったい みさはね もう離れないの』
  立ち上がろうとしても離れない 無理に引き剥がしてもまた泣く
 だけ 非常に不安定で些細なことでバランスを崩す 3歳で幼稚園
 に通わせて たった2日で辞めてしまった 集団生活はまだ無理
 『ううん でもおかあさん お掃除とか洗濯ができないでしょ』
 『しなくてもいい みさとずっといるの だっこして してよっ』
  4歳の子供は抱き上げるのにも勢いがいる 娘は自分の親指をく
 わえながら あたしの首筋を触っている このポーズは1歳になっ
 た頃からのおネムの印 昼寝するような時間じゃないのに
 『なあに みさちゃんはもう寝ちゃうの お昼ご飯を食べてからに
 しない そうだ お昼はお弁当を作って公園で食べようか ねっ』
 『うん お弁当は食べるけど 公園じゃなくてもいいと思う』
  娘はほとんど外で遊ばない 大人はおろか同年代の子供も苦手で
 普通に話せるのはあたしと旦那だけ だから大きな子供が幼稚園や
 小学校に行っている平日の昼間にピクニック 少しでもと思う
 『こんなにいいお天気だもん みさちゃん きっとすんごく気持ち
 いいよ タコさんウインナーとか オニギリも入れようね』
 『それならいい みさはお弁当の絵をかくよ あっ スケチブック
 がなくなったからなんか紙 紙がないとかけないもん 今すぐ』
  機嫌のなおった娘を床に降ろす ちょっと先に楽しみを作って時
 間を埋める いつもこの繰り返しで毎日を過ごす さっきまではな
 にの楽しみを絵に描いていたのか まるであたしの小さなコピー
 『はいはい きょうはたくさん折り込み広告があったから きっと
 裏側に印刷してないのもあるわ それに描きなさい 自分でね』
 『はいはい みさちゃんが自分でね おべんとおべんとおべんと』
  歌いながらキッチンの方へ歩いてゆく 娘の頭の中はお弁当の絵
 のことでいっぱいになってしまった あたしは床に落ちた下着を拾
 い上げて そしてゆっくり振り返る ベランダの向こうは青空だ
 『みさちゃん きのう買ったイチゴもあるわ それも一緒にね』

  ほんの瞬間だけ頭の中が青空と繋がって すぐにあたしは日常に
 引き返す 青空の手前にはベランダがあって そのベランダには物
 干竿 首が伸びた旦那のTシャツと娘のスカートが翻り まだまだ
 干さなきゃいけないものがカゴの中 それもお昼までに済ます
  洗濯の最中に掃除を片して 昼食は御弁当を持って公園に なん
 となく時間を割り振って 溜息をついた それだけのこと







             》 しびる 《
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(のりこ)>えーっと こゆのを読むほどに しびさんの日常なんじ
      ゃないかと思うんですけど 元ネタはプライベート?
(しびる)>いや こんな暮らしじゃない
(のりこ)>ふうん 私も子育てはしたことがないんで お母さんや
      主婦のひとの毎日って詳しくないんですけど
(しびる)>そういう設定だよな のりこは
(のりこ)>そういう言い方もどうかと思いますけど ちっちゃな女
      の子とお母さんの関係ってこんな感じなんですかね
(しびる)>さあな それぞれなんじゃねーの
(のりこ)>それはそうなんでしょうけど
連作26 知連作15 すわや
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 種別 連作系第26期 知連作15
 題名 『 すわや 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月30日02時47分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】15 すわや

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #15(B群)
 



           『 すわや 』


                        作:しびる





  土曜日の午後 どこかに出掛けようって約束は適当に ファスト
 フードの店で待ち合わせて 映画でも見ようかと思っていたけれど
 見たい映画の話が合わず どうしたものかなあと数十分間 どんな
 話をしていたか忘れたけれど なんとなく話がまとまった
  それじゃビデオでも借りてと話が決まり 彼女の部屋の近所のレ
 ンタルビデオ店へと なにか仕方ないようなゾンビ映画 折衷案が
 暴れる死体になるのは それはそれで構わないような気もする 最
 近ずっと平和だし たまにはこんなふうでも なんて考えたり

 『散らかってるけれど 別に不潔じゃないから気にいないでね』
 『それほどでもないじゃない それよりも不思議な臭いがするな』
  途中のコンビニでスナックと烏龍茶を買って 彼女の後ろを歩い
 てマンションへ ドアを開けて招き入れてもらって鼻腔を拡げる
 『これ お香の一種 アロマテラピーってあれね 話したでしょ』
 『ふうん そういえば前に はあ みどりちゃんの部屋かあ』
  彼女との交際も半年くらいになるけれど この部屋に呼んでもら
 ったのは初めて 飲んだはずみでキスしたことはある でもそこま
 での関係 普段は非常に淡白な彼女 艶っぽい展開にならないのだ
 『散らかってるでしょ どうしても吸うなら灰皿を用意するけど』
 『ああっと いいよ それよりもさあ なんか凄いテレビだね』
  6畳くらいの部屋に50インチはあろうかって画面 窓辺には衛
 星アンテナが3個 ビデオデッキの上にはCATVのターミナル端
 末 壁には子供のころ放映していたアニメのポスターが貼ってある
 『出不精の楽しみね はい烏龍茶 かんぱーい えへへへへ』
  大きな瞳に広いおでこ だらしなく笑うとこれがまたかわいいの
 だ 小さな卓袱台を挟んでクッションに座る ベッドを背もたれに
 して烏龍茶を飲む このグラスはドーナツ屋の景品らしい
 『みどりちゃんは なんか いつまでたっても新しい部分が見えて
 くるよね やっぱりゾンビものはこの映画に限るなあ うんうん』
 『伏線がないのよね もう最初っから世界中がゾンビだらけで』
  お菓子を掴みながら彼女の膝を眺める この丈で股のところが繋
 がっているのはキュロットとかいうやつだ 交際中の彼女だからし
 げしげと眺めても怒られるわけじゃない 画面は凄い状態だけど
 『うん なあにもう 映画を見てなさい 観月君はいつも』
 『いやなに 柔らかそうな足だなあと思って せっかくだから触っ
 てもいいかな 部屋に呼んでもらったってことはいいんだよね』
  すぐに視線に気付いて頬を指で押される でもその表情は砕けて
 いる 返事を聞く前に手を延ばし 太股にそっと触れてみる 抵抗
 しないのは構わないってことだろうから 足の隙間に手を差し込む
 『怒った 怒ってるなら辞めるけれど こんなのもいいなあ』
  それまで膝の上で組み合わさっていた両手が するりと解けてク
 ッションの上に落ちる 左手を締めつけていた太股の力が弱くなる
 俯いているから彼女の表情はよく見えないけれど 妙な間合い
 『うん 構わないけど なんか ちょっと恥ずかしい かな あ』
  少し上に移動させると 彼女の全身がぴくりと震えた いつにな
 くかわいらしい声 小さな悲鳴を聞いた瞬間 胸の奥の方でなにか
 が締めつけられるような音がした 見れば彼女は唇を噛んでいる
 『みどりちゃん なんてのかその いいかな えーっとその』
  この感情をどう表現したものだろう こうなれば我慢なんてでき
 そうにない 左手を動かしながら尋ねてみる もし拒絶されるなら
 今度にすればいいけれど 少し間があって頷く姿 OKらしい
 『できればね シャワーとか浴びてからが あっ んんんんっ』
  潤んだ瞳で見つめられて すぐさま彼女を抱き締める 柔らかい
 胸の感触 お尻に手をまわして唇を重ねる 舌の先に彼女の舌が絡
 みつく そのままクッションに押し倒して首筋に舌を這わす
 『うんと あんっ ここじゃなくて ベッドでしよう ちゃんと』
 『うん なんか興奮しちゃって みどりちゃんは かわいいよね』
  少し上気した笑顔 噛み付いて食べてしまいたくなるような衝動
 に駆られる 胸にお尻 この肉付きのいい体をどんなふうにしても
 いいのだと思うと なにか眩暈にも似た至福感 凄くかわいい
 『よいしょっと こんな昼間からいいのかな あたしってば』
 『いいと思うよ 誰にも迷惑を掛けてないもの ふんふん』
  ふたり揃って照れ笑いしながらベッドへ 彼女が先にシーツに潜
 り込んで 服や下着が順に外へ放り投げられる 実のところ女の子
 と最後までしたことはない でもなんとかなるだろうと服を脱ぐ
 『ビデオは凄いことになってるけど こんなことしてる男女ってさ
 真っ先に襲われたりするよね あのテの映画では』
 『仕方ないかな はいっ 初めてだから凄く緊張するの ふう』
  すべて脱ぎ終わったらしい 薄手のシーツだから体の輪郭が空け
 て見える 顔と両手だけシーツから露出させて 不安そうな表情に
 再び胸の疼き すぐにシーツに潜り込む 甘酸っぱい香りがする
 『そっか みどりちゃんも初めてか こんなふうになるとは思って
 なかった 初めてはお互い様だし めちゃくちゃにするかも』
 『うん 観月君なら なにをしてもいいから ああっ くうっ』
  少し泣き声まじりの台詞 こんなふうな声は初めて聞く いつも
 の淡白さは嘘のような 胸の突起に舌を絡ませて 少し歯を立てて
 股間に右足を滑り込ませる ぬるりとした感触 もうすぐにでもで
 きそうだけど 勿体ないような気がして我慢する でも確認は必要
 だから手の指を沿わせる すると激しい反応 足を強く挟まれる
 『あっ ごめん みどりちゃん ゆっくりするから その どこか
 どんなふうだか感じがつかめなくて こことか みどりちゃん』
 『ううん いいの したいようにして くれれば あんっ』

  テレビからは女性の悲鳴 死んでから生き返った死体に誰かが襲
 われている 平和ぼけに適当だと借りてきたけれど こちらはこち
 らでそれどころじゃない そのうち音も気にならなくなった
  土曜日の午後にベッドでふたり やはりこの状況はホラー映画の
 導入部分 そんなふうに考えるとおかしいけれど なんてことを思
 い描きながら彼女を抱き締めた あまり早いのもあれだし とか







             》 しびる 《
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(のりこ)>なに描いてますかねえ ダメでしょ こーゆーのは
(しびる)>うんまあ たまにプチエロなのも描いておかないと 腕
      がなまっちゃうといけないし イザというとき用にさ
(のりこ)>どんなイザですか(ぷんすか)
連作26 知連作14 切幕
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 種別 連作系第26期 知連作14
 題名 『 切幕 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月28日02時26分
 注釈 行頭スペース+30W
+++++++++++++++++++++++++++++++
SUBJ:【知連作】14 切幕

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #14(B群)
 



           『 切幕 』


                        作:しびる





  なんとなく ただなんとなく特に理由もなく 気がつくと電話し
 ていない夜が数日 ましてや直接逢うなんてことは以前から難しか
 ったから あたりまえのように顔を見ていない数週間 愛情が良い
 意味で昇華した友情は理想 希薄な義務感を億劫さが包み込む
  毎日は目まぐるしく流れてゆく 性欲と関心が同じく減退するの
 は 結局それだけのことだったのだと苦笑い とても笑えない

 『もしもし あたし そう 少しだけ時間あるかしら』
  友人に借りたビデオを見るとなしに 先週買った週刊誌のページ
 をめくっていた すぐに日付が替わる頃 電話の鳴る予感がした
 『あ ああ どうしたの 今日は出掛けてないわけ 珍しいな』
 『別に そんなこと どうでもいいじゃない まだ寝ないでしょ』
  交際中の彼女だ 受話器を肩で挟んでテレビのボリュームを下げ
 る 画面には数年前のバラエティ番組 30過ぎて時流に乗った女
 性歌手が粉まみれになって笑っている 資料映像とか言ってた
 『ああ 少しならいいけど あそう 前に話してたあれ やっぱり
 ダメだってことらしい なんなら別の人間を探そうか』
 『もういい アテにしてなかったから それより どうするの』
  友人同士が紹介し合って まるでお見合いのように付き合い始め
 て それから8カ月くらいになるか 彼女の誕生日が先月で それ
 から延び延びの約束 知人のベーシストを誘って断られた
 『どうってなにが ああ悪いちょっと で なにをどうするって』
  画面には大掛かりな極彩色のセット その女性歌手が派手にスロ
 ープを滑り降りる 着地する瞬間に丈の短いスカートから下着が見
 えた リモコンを操作してその部分にマーキング これが資料か
 『時間があるかしらって聞かなかった 真面目に話してもらえない
 かしら 忙しいならまた今度掛けるけど 本当にわからないの』
 『なにか怒ってるわけ お前こそ わかるように話せよな』
  最近では有名になってしまって そういえば数年前まではバラエ
 ティ系のタレント扱いだった 確かにこのビデオには資料的価値が
 ある Vシネマに出演していた話は有名だが これはその他大勢
 『こんな状態って我慢できないの 前は毎日電話してくれたでしょ
 忙しいけど無理して時間作って 頭の悪そうなことは言いたくない
 けど でもわかるでしょ どうするの ねえ 聞いてるっ』
 『あん ああ 急になに どうするって言われても なんだか』
  画面を眺めながら 耳に押し当てた受話器に違和感 彼女の声が
 徐々に小さくなるから 強く押し付けているのが原因だと気がつい
 た どうも会話に集中できない この現実味の薄さはなぜなのか
 『どうして 忙しくってさせてあげないから お互い様でしょ』
 『いや なんだろ ああっと なんか 誤解してるんじゃないか』
  テレビ画面中のゲーム大会は終了して トークの体裁に往年の映
 画俳優が出演している 去年だったかに肝臓癌の手術をして この
 頃は自覚症状もなかっただろう 声は聞こえないが微笑んでいる
 『もううんざり 別れるって言って もうダメ 続けられない』
  世界の果ての出来事のようだ 左耳から聞こえてくる言葉はすべ
 て理解できるのに 焦りや悲しみではなく 酔って眺める地面のよ
 うに 歩こうと思えばまっすぐ歩ける そこに段差が見えている
 『返事してよ 黙ってないで あたしが怒って切るのを待ってるん
 でしょ そんなのフェアじゃない どうして 答えてよ』
 『いや そういうつもりじゃないけれど 普通に聞けないだろ』
  妙な間 麻酔を掛けられて自分の傷の縫合作業を見ているような
 画面に流れるスタッフクレジットを凝視する すぐにCM そして
 短い天気予報 画面が乱れて ドラマかなにか 家族の団らん
 『聞いてる 普通ってなに この頃いつもこんなじゃない 今日は
 怒らないで話そうと思ったのに 全部台無し 答えてよ早く』
  すぐにまた画面が乱れて 見たことのない歌手が歌っている 画
 面の下半分にプレゼントのお知らせ 当選者の発表は商品の発送を
 もってかえさせていただきます そして再びドラマに戻る
 『また前みたいに電話する 仕事だって休めないわけじゃない』
 『そんなの嘘 またおんなじことの繰り返し 別れるって言って』
  どこかで見たような光景 出掛けようとする子供に帽子をかぶせ
 て エプロン姿の母親がなにか台詞 母親の顔にゆっくりカメラが
 寄り そしてどこかオフィスの様子は きっと父親の登場だろう
 『言え 言えバカ お願いだから もう別れるって言って』
  受話器を握る手が痺れている 膝の上の雑誌が滑り落ちる テレ
 ビ画面が小さくなってゆく すべての視界がどんどん小さくなって
 ゆく 後頭部に小さいけれど大きい感じが繰り返される 小さいけ
 れど大きいのだ その感覚が速度をあげて寄せては返す
 『どうして解放してくれないの こんなこと続けてても辛いじゃな
 い 喋れバカ 喋れ喋れ喋れ ばかあああああっ お願いだから』
  ビデオが終わる ドラマの途中でなんの脈絡も無しに いきなり
 大きな音を立てて再生が解除される そしてうなりながら巻戻し
 『ごめん もうきちんとするから 謝るから』
 『もうダメ 死んでしまいそう お願いだから別れるって言って』
  画面にはノイズだけ 巻戻しの音が少しずつ変化して 耳障りな
 ほどに高音になり そしてテープが吐き出されている 画面から目
 が離せない 小さな無数の光点が円を描くように明滅している
 『どうしていつもそうなのよ 黙り込んで お願いだから ねえ』
 『ああ わかった もう別れる もう逢わない もう終わり』
  受話器の向こうに沈黙が続いている どれくらいの時間か判断で
 きないくらい 壁の時計の音 遠く車のエンジン音 どちら側か
 『うん ありがとう じゃあ』

  最後の言葉を聞いてから かなりの時間が経ってから電話の切れ
 る音 受話器をゆっくりと戻して テレビの電源を切った
  大きな音を立ててはいけない気がして イスが軋まないようにゆ
 っくりと立ち上がった ゆっくりと ゆっくりと









             》 しびる 《
+++++++++++++++++++++++++++++++
(のりこ)>あー いろいろタイヘンですね
(しびる)>だよなあ
連作26 知連作13 ぷれ・ななめならずも 4
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 種別 連作系第26期 知連作13
 題名 『 ぷれ・ななめならずも 4 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月26日00時38分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】13 ぷれ・ななめ 4

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #13(A群)
 



        『 ぷれ・ななめならずも 4 』


                        作:しびる





  こんな昼間に それも室内照明の煌々と輝く中 なにかと見間違
 えるならとにかく その場に存在しない死体を 見たように勘違い
 することなんてことがありえるのか 手の込んだ悪戯を仕組むよう
 な暇人もいないだろう そんな悪戯に誰かの利益があるとも考えら
 れない ましてや本当の死体なら この限られたスペース限られた
 時間にどこへ隠せるのか どう考えても妙な事件だ
  しかし解決できる考え方もなくはない それが唯一の解決方法だ
 と言い切ってもいいくらいだが 幽霊だなんて 子供じゃなし 

 『なんだか納得いかないな どう考えても変だもん』
 『歩合制じゃないから構わないだろうに 今日はこれで仕事も終わ
 りだろ 事務所へ帰ってから飲みに行かないか』
 『仕事の話じゃなくて むうううん 死体の話だってば ううん』
  遠く講演会場から人影が吐きだされてゆく ななみと松岡はそれ
 を眺めながら佇んでいた 消えた死体に消えた仕事
 『考えても仕方がないよな 帰ろうぜ 一緒に乗っていけよ』
 『むうううん あ 次の仕事があるから それにバイクだもん C
 BSに顔をだしてからじゃないと 今日の仕事は終わらないのね』
 『ななみはバカみたいに働くな まあ頑張れよ 死なない程度に』
  わりと淡泊な態度 誘っているのがどれほど本気か ななみが次
 も仕事だと聞いて 松岡は肩を窄めて苦笑する

  エメラルドパレスにて正午から仕事 内容は講演会の司会で衣装
 は会場にて支給 順調に進めば2時間弱で講演会は終了 なんだか
 んだを含めても2時半までには解放されて 次の仕事は3時までに
 入ればいい手筈であった それほど無理のないスケジュールだ
  それが現在12時半 突然キャンセルになった空白時間 ななみ
 はいつも昼食を採らない主義だから なにかどうしようもない暇が
 できてしまった 日曜日の午後に独身女性 時間があればすること
 も山盛りだろうに ななみの場合はなにも思い付かないらしい
  ぼんやりと建物の中を徘徊して ななみは記憶の中の女性の死体
 について考えていた あの虚ろな表情は生者のものではなく どん
 なに考えても見間違いではない 考えても仕方がないってのは松岡
 の意見だが そう感じなくもない
  スッキリしない気分で1時までうろうろ 途中で飯島に出会った
 が 非常に忙しそうな様子だったので声も掛けられず 結局のとこ
 ろななみは次の仕事に向かうことにした 暇な時間にも仕事じゃな
 ければ落ち着けない ななみは情けないほどに貧乏性であった

  4区に隣接して6区 少し郊外になる6区にもオフィスビルはど
 こまでも続く しかし徐々に民家の割合も増えて かなり末端部に
 なると大半が民家 それも建売住宅ではなくて古くからの木造建築
 ある意味バランスのとれた街並みに たまに似つかわしくない建物
 が混じる それも眺めていれば不思議な調和 所詮は人間の考える
 ことだから 究極の奇異なんてものはなかなかに難しい
  しかしななみの向かう建物は奇異な存在であった かなり遠くか
 ら見える電波塔 めでたい紅白の色彩に寄生するかのように3個の
 パラボナ 誰が誤解したのかしらないが 建物自体は不気味な緑色
 周囲の風景に調和する計画だったのだろう 完全に裏目にでた色彩
 感覚は やはり建物の内部から発せられるものであった
 『おはようございまーっす ふあああああ まだ2時前じゃない』
 『なんだ ななみちゃん 今日は元気がないねえ これ お手紙』
  警備員も受付嬢もいない 妙に静かな建物はCBS 正式には6
 区中央放送局 セントラルブロードキャスティングシステムの略で
 あるが UHFの零細テレビ局 可視聴地域は6区だけじゃない
 『お手紙ねえ 区役所の企画活性課と セイタカアワダチソウ撲滅
 サークル こんなサークル聞いたことがないなあ イトーさんも知
 らないでしょ 誰か知ってるかなあ ふああ なんだかなあ』
  正面玄関から3階まで階段を登り ななみがドアを開けたのは午
 後1時50分 リュックとヘルメットを自分の机に放り投げて 部
 屋の隅に設置されているソファーに寝転がった
 『元気だして仕事してよ 5時までに昨日の取材を片してくれなき
 ゃ それと ともみちゃん達と喧嘩しないでね お願いよ』
 『ふあーい 昨日の取材ってのはなんだったけなあ へいへい』
  ななみはCBSの派遣社員 アナウンサー志望で契約しているが
 今のところは報道部スタッフ 役職は一応ディレクター ネタを集
 めてスケジュールを組んで 撮影して原稿を書いて電波に乗せる
 『よう 大泉君 なんか冴えない顔してるな 男絡みか』
 『あ おはようございます 竹村さん そんなふうに見えますかね
 どちらかと言えば女性絡みかもしれませんねえ いやいや あは』
  ノロノロと立ち上がって机に向かう 昨日から書きかけの原稿用
 紙を肩肘を突きながら眺めて 背後から声を掛けてきたのは髭面の
 男性 どうして後ろから冴えない表情が見えるのか ちなみに放送
 用原稿は10文字で1行 余談だけど1行で約5秒換算らしい
 『女趣味か 見掛けによらんものだな で本当のところはなんだ』
 『死体なき殺人事件 他局なら飛びつきそうなネタでしょ でもで
 すねえ なんかどうでもいいような気がしてきました ふああ』
  ななみは机に突っ伏して生欠伸 竹村と呼ばれた男性は隣りから
 イスを引っ張ってきて座る あまり慌ただしい職場ではないらしい
 『殺人事件ねえ 大泉君はそれに関係してるのか 殺したり殺され
 たりするようなタイプには見えんが CBSでは使えんな』
 『でしょ 区役所主催の書道教室だもんねえ 殺人事件なんか観て
 る人が驚くよ あはははは 観てる人がいればいいか いやいや』
 『あら 大泉さん 今日はお早い出社ですのね さぞかし綺麗な文
 字で原稿が仕上がることでしょう おほほほ なんてね』
  またもや背後から登場人物 今度は髪の長いすこぶるの美人 正
 確な発音で言い放ち おほほのところで手に持つ原稿を机の上へバ
 ラバラと落とした ななみは突っ伏したまま動こうとはしない
 『今度からは漢字にルビを忘れないってね 詰まらないように大き
 な文字で書いてあげようじゃない 鹿島ともみアナ専用にねえ』
 『そう願いたいわ 文字って教養でしょ では失礼』
  どちらも視線を合わせる気はないらしく 双方を眺めて竹村は楽
 しそうだ 立ち去るともみに視線を移して ななみは大きく溜息を
 ついた 机には昨日の放送分の原稿が散乱している
 『あたしも読ませてもらいたいなあ 正直なところ 凄く本音』
 『鹿島君は構成作家志望だろ 同じような愚痴を言ってたぞ なん
 とも好対照なふたりだよな ってのはとにかく 殺人事件』
 『そうそう さっきの仕事でね 偶然に発見したわけですよ どろ
 んと血を流した女性の死体 でも消えちゃって事件は迷宮入り』
  鼻と唇の間に鉛筆を挟み ななみは竹村に向かって事件の説明を
 してみる しかし話したところで解決するはずもなく 自分で最後
 に迷宮入りを付けて落着 気怠い午後に無気力会話
 『そういえば巷では連続通り魔事件らしいが どうなの 報道部と
 しては追い掛けないわけか 大泉君が提案すれば通るだろ』
 『どうでしょうねえ ここ1週間は6区の文化週間ですからねえ』
  第4緒方ビルの前でエビス警官が話していた事件である 報道部
 の仕事は報道であるけれど ことCBSに於ては派手なスクープ関
 係は報道の範疇ではない 地域に根差した報道を目指すらしい
 『連続通り魔よりも小学生の作文コンクールだもんな 俺はCBS
 の姿勢は嫌いじゃないが スポンサーが黙っていればの話だ』
 『6時だ6区は区役所がメインスポンサーですから あとは土建屋
 さんの連合会 それだって区役所のお友達ですね 問題なしです』
  6時だ6区はCBSのニュース番組 名前からもわかるように6
 時のニュースである とても地域に密着したニュースは既にニュー
 スの体裁も危うい状態 制作に携わるすべての人間が気付いている
 『なら構わないか 金をだす奴が口をだす 世の中の基本だな』
 『あたしは部長の気に入る原稿を書くだけですよ 3カ月の試用期
 間は過ぎてるんですからねえ 読ませてくれないのは契約違反』
 『竹村ちゃん ななみちゃんの仕事を邪魔しちゃダメでしょ』
  さっきイトーと呼ばれていた男性 おそらくはななみの直属の上
 司である伊藤氏は 艶かしい物腰で鋭い眼光 この業界にはわりと
 珍しくないタイプである 竹村に対してもちゃん付けで話す
 『邪魔してねーぞ CBSの将来に関してディスカッションだ』
 『そんなことは局長さんが考えるのよ アンタ達契約社員組は黙っ
 て仕事をしていればいいの ねえ ななみちゃん』
 『はあ そうかもしんないですね あたしには難しくって もう』
  伊藤は正社員であるが CBSの社員の約8割は他所からの派遣
 である契約社員やアルバイト 残り2割が管理職を独占しているが
 当然と言えば当然のことである なんたって正社員だから
 『そんじゃあな 大泉君 例の事件のことは飲み会で聞こうじゃな
 いか あそうそう 今日は編成部の飲み会だから出席するように』
 『うんとですね 今日は事務所の同僚と いや 出席します』
  竹村は面倒そうに立ち上がる 正社員と契約社員の話をされれば
 竹村は黙って仕事をするしかない ななみは不意の誘いに松岡との
 会話を思いだしたが よく考えれば正式な約束を交したことにはな
 っていないはず 少し考えて出席の返事
 『なによ ふたりして秘密の話ね それなら報道部も合同で開こう
 じゃないの 早速部長に進言してこよう 頭越しはいけないわ』
 『伊藤の世渡りだな 合同なら歓迎するぜ あとで連絡する』

  竹村と伊藤は同年代だ 竹村は振り返らずに片手を上げて 伊藤
 は伊藤でそそくさと立ち去る 残されたななみは黙って仕事をする
 ほかないらしい こんな感じで暢気な時間が流れる とても平和
  朝からどれだけ仕事をしているか ななみはぼんやりと天井を眺
 める すすけた天井には古いポスターが張りつけてある もう誰の
 顔だか判別できないが 目だけはななみを見つめていた



             》 しびる 《
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(のりこ)>ぷれななめ4です そろそろCBS編に突入ですね
(しびる)>やたらキャラ増やしてるよなあ 逆にシリーズなら収拾
      がつかなくなるくらいか 半分は放送局絡みだな
(のりこ)>これは元ネタがあるってお話でしたよね
(しびる)>そんなの言ったっけ? まあそうなんだけど 知り合い
      が業界の人間だったもんで 世間話で訊いたことを下敷
      きにしたのな でも守秘の仁義は守ってるぞ 使ってる
      のは空気だけで細かい設定はぜんぶオリジナル なんて
      ことをいちいち説明させるなよ 無粋だからさ
(のりこ)>しびさんがご自分で吐露なさってるんでしょ
(しびる)>あーそうかい
連作26 知連作12 ぷれ・ななめならずも 3
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 種別 連作系第26期 知連作12
 題名 『 ぷれ・ななめならずも 3 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月24日00時18分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】12 ぷれ・ななめ 3

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #12(A群)
 



        『 ぷれ・ななめならずも 3 』


                        作:しびる





  エメラルドパレスはイベント会場 社員研修や講演会 結婚式の
 披露宴にゼミの合宿 陶芸教室に衣類の即売会 収容人数500名
 の大会場を基軸に放射状の建物 シティホテルとしての営業と五分
 状態 資本構成としては とある電鉄企業のグループ傘下にある
  話題中の衣装協力は その電鉄が所有するデパートのオリジナル
 ブランド だからこの種の契約にしては珍しく衣装込み 普通は派
 遣元の事務所が独自にルートを開発するか 大抵の場合は個人負担
 平たく言えば自前 ギャラのわりに経費の掛かる仕事なのだ

 『あのお すみません 衣装係の方で すよね ひょっとして』
  あからさまに異常事態 ななみはそれでも喋り続けているが 部
 屋の中央には考えるまでもなく尋常ではないものが横たわっていた
 『もしもーし その もしかして あの わああああああああ!』
  衣装係には見えない 床に転がるその人物は ある意味ではこの
 場所に日常的な存在であろうか ななみの金切り声にはピクリとも
 反応せず 真白なスーツを着た女性は目を見開いていた
 『わあああ! やああああ! だれだれだれ誰か! 死んでる!』
  あきらかに死体 青白い顔の女性は 真っ赤な唇から一筋の鮮血
 を床に流し おまけに背中からは 純白のスーツを赤く染めて 今
 まさに殺害されたと思しき状態 なにやら突然事件である
 『うわあああ! やああだああ! うひゃあああああ!』
  ドラマや映画では こんな場合は誰か来てくれたりするものなの
 だが ななみがどんなに叫んでも 死体とななみの構図に変化はな
 い ななみは這うようにして通路を逆戻り とにかく誰か生きてい
 る人間を探さなければ こんな話だったのかと納得はできない
  ななみは驚愕の余り腰が抜けていた 小走りの通路をホフク前進
 だから 講演会会場まで到着するには 理論上では数十倍の時間が
 必要なはずであった しかしわりと簡単に生きている人間と遭遇
 『お前さあ 着替えないでなにやってるんだよ どうかしたのか』
 『あややややや ままま松岡君 したしたした したいっ!』
  黒のスーツに蝶ネクタイで 松岡は既に仕事中であるはずなのに
 ななみが床を這っているところに歩いてきた 松岡はななみを一瞥
 して眉を寄せる そして取りだしたタバコに火を点けた
 『したいってか 他人様の慶事に興奮したのか こんなところで迫
 られてもだ なんなら階上のスイートルームでも押さえるぞ』
 『いやいやいやいや そのしたいじゃなくて 死体 他殺体!!』
  恐怖のあまり涙目になり 腰が抜けているから松岡の足にしがみ
 つく 松岡の誤解も無理ないが 他殺体もすぐには変換できない
 『たさつたい なんだそれ とにかく講演会は延期だから撤収だ』
 『がああ! どーしてわかんないんだ 人が殺されているの!』
 『なにやら不穏な話題ですね 詳しくお聞かせ願えますか』
  ようやく呼吸も整って ななみが叫んだところで背後に気配 振
 り返れば飯島主任 先程よりも険しい表情をしている
 『いや だから スタッフ控室に女の人の死体が! 血を流して死
 にたてのほやほやな感じの いやひえひえかな それよりも警察を
 呼ばなきゃ どうしてみんなそんなに暢気に』
 『死体があるのか ななみの話だから見間違いだろうが どこだ』
  松岡は通路に置かれた灰皿にタバコを揉み消し 小馬鹿にした表
 情でななみを眺める ななみは松岡への説明を諦めた
 『スタッフ控室に 飯島さん 責任者だから見てきてよ 早いな』
 『ななみが変なことを言うからだろ 間違いだったら気が悪いぞ』
  飯島は既にスタッフ控室に向かっていた 確かに場の責任者とし
 て 殺人事件なんてものは最大級のアクシデント これ以上はない
  松岡はななみの間違いだろうとタカを括り ちなみに通路はスタ
 ッフ控室が最深部で突き当たり ドアは通路に向かって開いている
 こんな描写を進めると 推理小説みたいでおもしろい
 『あんなに死んでる人なんて見たことがないくらい まだ背中の傷
 なんて血が広がっている最中で 飯島さんだって叫ぶと思うよ』
 『ふうん まあいいけれど 事務所に帰るなら乗せていくぜ』
  ズカズカと歩いて飯島はスタッフ控室を覗き込む そしてそのま
 ま侵入して それっきり暫く待っても現われなかった
 『松岡君も見てきてよ もしかして 飯島さんも殺されちゃったの
 かな ホラー映画なんかであるよ 順番に殺されるの』
 『こんな晴れやかな雰囲気で よくそんな陰気な想像ができるな』
  金銀装飾に基調は真紅 音楽は春の海で これでもかって設定に
 殺人事件もないだろう 加えて講演会会場からは派手な振袖の女性
 が現われたりする 講演会は延期 通常のアクシデントならこのレ
 ベルがいいところだろう 殺人事件は異常すぎる
 『飯島さん 大丈夫ですかーっ 誰か頼りになる人はいないかな』
 『仕方がない 見てきてやるよ 彼もついでに用事だろうさ』
  そして松岡も通路の奥へ スタッフ控室を覗き込み やはり同じ
 ように姿を消した 大のオトナがふたり どうしたのか

  少し話題が展開したので ここで少し解説を入れたりする 本当
 ならななみの仕事についての描写が入るはずだったのだが どうや
 ら予定されていた依頼事はキャンセルの雲行き だから説明
  ななみが所属するのはオザキ音楽事務所 基本はタレント事務所
 だが 最近では業務拡大で人材派遣業と解釈できる状態 業界内で
 は中堅企業で 音楽部門では数グループのヒットアーチスト達がい
 る 大泉ななみはアナウンサー部門 アナウンサーと言えば聞こえ
 はいいが 朝からの仕事はアダルトCD−ROMのアテレコ 次の
 仕事は講演会の司会 草の根アナウンサーなんてのはこんなもの
  ななみの信条はシッポまでアンコな仕事 だから日に2現場や3
 現場はあたりまえ しかし今日は少し違っていた 仕事中に死体を
 発見するだなんて 人生に何度もあることじゃない

  ななみの背後が慌ただしくなる それ以上にななみの胸の内は穏
 やかではない 講演会が中止になった理由は不明だが もしかすれ
 ば先程の死体が静原きみえか それよりもなによりも飯島と松岡だ
 『飯島さーん 松岡くーん やだなあ たしも殺されちゃうかもし
 んないし どうしたものか あ さっきの人! こっちこっち』
 『はっ わたくしでございましょうか なにか』
  ななみが説明するので書くまでもないが さっきの人は飯島の部
 下のことだ なにやら青い顔をして講演会場から現れて ななみに
 呼び止められたのは不幸の始まりかもしれない
 『君だけ行かせるとまた危ないかもしれないから 一緒に来てくれ
 ないかな 信じなくてもいいけれど 殺人事件が起きてるの』
 『殺人事件! 人が殺される殺人事件 な そのようなご冗談は』
 『冗談じゃないって もしかすれば飯島さんも危ないかも ほら』
  自分も大きな声を上げて 飯島の部下は周囲を見渡す ななみは
 説得力を持たせるのに飯島の名前を絡ませて 指を差したところに
 飯島が現れた 続いて松岡も 楽しそうに笑ったりしている
 『なにか和やかな雰囲気ですが 本当に殺人事件ですか』
 『ふむむ あれは恐怖に引きつった表情じゃないかと 松岡くーん
 女の人が死んでたでしょ ねえねえねえってば あららん』
  そんなはずはないので ななみは急いでふたりに駆け寄る そし
 て部屋の中を覗き込んだ 案ずるよりも見るが安し 百聞は出産に
 しかずだ 瞬間ななみはそんなことを考えていたが とにかく
 『ない! あんなにハッキリと死んでいた人が いない! ぞ!』
 『ななみのことだからな さて 事務所に帰ろう 日曜なのにさ』
 『こんなところでなにをしている 静原オフィスにコンタクトは取
 れたのか 伊達マネージャーに報告書をまわすぞ 急げ』
  松岡も飯島も 既にななみの言葉など聞いていない スタッフ控
 室には死体どころか血痕もなく みんな各々に次の用事が押してい
 る 松岡は不機嫌に背伸び 飯島は部下に檄を飛ばす
 『おかしいなあ 死んでたんだってば 嘘じゃなくって 絶対に変
 だよ 消えるわけないもん 松岡君 信じてくれないわけ』
 『ななみにはそんなふうに見えたんだろうさ いいじゃないか U
 FOだって幽霊だって 死体もプラズマ現象だろう』
 『大泉様 詳細は正式な文章にて報告いたしますが 今回の講演会
 は延期となりました ご足労頂きましたが かようなわけで』

  松岡は同僚だから相手もしてくれるが 飯島は殺人事件云々には
 微塵も触れず ただ事務的に説明して頭を下げた ななみは納得い
 かずに頬を膨らませて それでも反射的に頭を下げたところで飯島
 はきびすを返す 飯島の部下は既に走り始めていた
  なにがどうなっているのか ななみは無意識に自分の頬を握って
 いた 夢よりは キツネにつままれた感じか いや 頬を握るのは
 ななみであるから この現場のキツネは彼女自身かもしれない





             》 しびる 《
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(のりこ)>ぷれななめの3です なんかやたら展開してますね
(しびる)>たしかこれって長文1本だったのを6分割したのな 一
      気仕上げはノリが違うからなあ ままこんな感じか
(のりこ)>エッチな仕事から殺人事件 そして放送局まで 移動も
      バイクですっ飛ばしてますし スピード感ですか
(しびる)>まあ そんな感じかな このあとシリーズ化するつもり
      でやってたんじゃないけど CBSのネタが思ったより
      しっくりきたんで そっちを拡げたのな
(のりこ)>なるほど ななめの本編にも殺人事件はリンクしてます
      し うまく展開すればいい感じのシリーズですよね
(しびる)>うまく展開すればな(苦笑)
連作26 知連作11 ぷれ・ななめならずも 2
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 種別 連作系第26期 知連作11
 題名 『 ぷれ・ななめならずも 2 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月23日00時21分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】11 ぷれ・ななめ 2

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #11(A群)
 



        『 ぷれ・ななめならずも 2 』


                        作:しびる





  株式会社SRシスコムの本社は9区に自社ビルだが ぷらぐいん
 は4区でテナントビルに入居 5階のフロアをすべて占有して ち
 なみにテナントビルの名称は第4緒方ビル 緒方グループの所有す
 るオフィスビルのひとつ この辺りの説明は冗長になる危険性が大
 なので割愛 とにかく ななみは駐車場から道路へ

 『がああああっと 危ないなあ 事故るじゃないかさ まったく』
  4区界隈はビジネス街だからして 日曜日には極端に交通量が減
 少したりする ななみはそれを考慮して 周囲を確認せずに道路へ
 合流 左折した途端にパトカーが道路を占拠していた 急制動
 『こんなところに停めると危ないよ いくら警察の人だからって』
 『信号無視 一時停止義務違反 免許証を見せてもらおうね』
  エビス顔の警官がニッコリと微笑む まだ公道を10メートルも
 走っていないのに 信号無視もなにもあったものじゃない
 『信号なんてないよ それに一時停止線なんて あたしってばすん
 ごく急いでるから できれば通してもらえないかな お願い』
 『急ぐのは良くないねえ そうか 女の子だったんだねえ 実のと
 ころは検問なんだよね 大泉ななみさん なにを急ぐのかな』
  ミニパトが一台にコーンが3個にエビス警官がひとり ななみの
 免許証を眺めながら職務質問 ちなみに職務質問は どんな仕事を
 しているか尋ねることではなくて 警官が職務として質問すること
 である 自分は仕事をしてないから大丈夫 ってのは通らない
 『検問って 違反の取り締まりじゃないの なんか事件でもあった
 わけ 用がないなら失礼するね 次の講演会まであまり時間が』
 『たいした事件じゃないさ 連続通り魔殺人事件なんて 犯人はバ
 イクで逃走らしいから 大泉ななみさんは女の子だから通ってよし
 講演会に遅れちゃ困るでしょ 地域密着型警官 にこにこ』
  エビス顔のままで更に微笑む 連続通り魔殺人事件が些細な事件
 なら この世の大事はなんだと言うのか とにかくななみは急いで
 いる 地域密着型エビス警官から免許証を受け取ると 前輪を持ち
 上げて急発進 ちなみに取り締まるべきは最高時速 初速はあまり
 高速じゃないから関係ない 原理としてはコーナーリングも同じ

  ぷらぐいんと同じく 催し会場エメラルドパレスも4区に存在す
 る 幹線道路に面して赤銅色のレンガの宮殿 道路に記された巨大
 な矢印はそのまま地階の駐車場へと続く 1階部分には割烹料理屋
 と喫茶店のテナント 5階以上はすべてスィートルーム 2階から
 4階が大小披露宴会場である 結婚式場にも頻繁に供される
  ななみの駆るバイクは 僅かの制動もないままに矢印部分へ突入
 重心の移動だけでアーチを潜り 速度を落とさずにスロープを下る
 地階へ侵入した途端に視界はブラックアウト そしてすぐにハロゲ
 ン灯の世界が広がった 地下は3層構造の巨大駐車場になっている
 『大泉ななみ様ですね お待ちしておりました』
 『ああっと 担当の飯島さんだよね まだ間に合うかな』
  黒のスーツを品良く着こなし オレンジ色の駐車場に男性が佇む
 バイクを停めたななみに歩み寄り 男性の眼光は照明を照り返し眼
 鏡の奥でもギラギラ 静かな物腰とどちらが本音だろうか
 『着替えていただく時間を割愛すれば どうにか こちらへ』
 『これは私服だもんなあ ケジメのない仕事はしない主義だしね』
  ななみはヘルメットを外して片手でぶらぶら 飯島と呼ばれた男
 性はヘルメットを受け取り ちなみにななみは黒の革製パンツに黒
 のジャケット インナーはTシャツでケジメには不可らしい とに
 かく時間がないらしいので並んで急ぐ とにかくばかりで恐縮だ
 『衣装はこちらさんで用意してくれるって聞いてたけど それと』
 『なにぶん大御所の講演会ですから こちらが出席者リストと進行
 表 それと経歴一覧です ご確認を』
 『ああっと それとね そうそう あたしは御仁の姪だよね』
  侵入口の脇にエレベーター ボタンを押して立ち止まったところ
 で飯島が書類の束を手渡す ななみは目を細めて確認 そして顎を
 上げて質問した ななみと飯島の身長差は20センチ以上ある
 『特にご要望はお聞きしておりませんから 当パレスではそのよう
 にサービスさせていただいて 失礼 少々お待ちを』
  話している飯島の胸の辺りから電子音 その間にエレベーターは
 地階に到着 飯島は取りだした携帯電話に答える ななみは先に乗
 り込んで待機 そのななみを飯島の視線が上下に舐める
 『小泉様 松岡様を御存知でしょうか 貴社の社員の方と申されて
 おりますが どうやら確認作業に不都合がありましたようで』
 『松岡君なら知ってるけど どうかしたの ここに来てるわけ』
  一緒に乗り込んでドアが閉まる 飯島が押したのは3階のボタン
 ななみは書類に目を通しながら質問してみるが 飯島はエレベータ
 ーが動き始めた途端にまったくの沈黙 そういう主義なのか
  エレベーターは3階で停止 ドアが開けば極彩色の世界が広がっ
 ていた 漂う音楽は春の海 真紅の絨毯に金色の壁 煌めくシャン
 デリアが天井からぶら下がり 非日常の権化はハレの空間 飯島は
 黙って先に降り ななみも続いて極彩色に踏み込む
 『でさ 松岡君が来てるわけ さっきの話の続きだけど』
 『別件を終えて帰るとこだったのにさ 事務所に連絡しろよな』
  飯島に質問したのに答えは背後から ななみが振り返れば黒のス
 ーツに真紅の蝶ネクタイの男性 会話からすれば件の松岡君か
 『したってば 15分くらい前かな はるかさんに話したもん』
 『どうせ適当な電話だろ ななみが間に合ったのなら俺は帰るから
 な とっとと着替えないと 講演会まで2分もないぞ』
 『着替えていただく時間はございませんね いかがでしょう 松岡
 様に前半をお任せして 途中で交代なさるのは』
  周囲にはおそらく講演会参加者と思しき人々が屯している なな
 み達が話しているのは広い通路のような場所で 突き当たりには受
 付が設置され どこかから華やかな笑い声が聞こえる 黒塗りの看
 板に白文字が曰く 静原きみえ講演会 誰だか知らないが
 『それしかないかなあ こんな格好じゃ仕事なんてできないしね』
 『なんで俺がやんなきゃいけないんだ ななみの仕事だろ』
 『当パレスとしては 式次第滞りなく進行致せば それはもう』
 『飯島主任 開演時間となりましたが いかがいたしましょうか』
  ななみがタカを括り 松岡が眉を寄せる 飯島はまるで決まりご
 とのように提案に念を押し 最後に参加したのは飯島の部下だろう
 『ああ そうだな すぐに話をつける 入場を2分遅らせろ』
 『しかし 配膳の桐島女史が既に あ いえ わかりました』
  飯島の部下らしい青年は なにか答えようとしたところで睨み付
 けられる どうやら飯島はかなりの権力者であるらしい それとお
 局様の存在 どこの職場にも色々あるらしいが すべて余談
 『それじゃ あたしは着替えてくるから 松岡君にお願いするね』
 『それで決まってしまうのな 仕方がない ひとつ貸しだからな』
 『では会場の方へ すぐにお客様を入場させます どうぞ』
  ななみの仕事がどんな種類か それはとにかく同僚松岡が代役ら
 しい ななみは壁に掲げられた各室配置図をさっと確認 すぐさま
 駆け足で通路を右へ エメラルドパレスの仕事は初めてじゃないか
 ら この辺りの段取りは慣れたもの 通路の突き当たりまで小走り
 で進み 見上げたプレートにはスタッフ控室 その下には赤く塗ら
 れた人型のシルエット まるでトイレだ などと思ったりする
 『こんちわあ 派遣の大泉です 衣装が届いていると 聞いて』

  ななみは元気良くドアを開けて 叫んだ声は最後まで続かなかっ
 た 煌々と照明の輝く室内には 乱雑に積まれた段ボール ハンガ
 ーにぶら下げられたラメラメの衣装 そして部屋の中央には





             》 しびる 《
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(のりこ)>ぷれななめの2です 毎回きちんと引いてから終了して
      るんですよね たいしたことないのもお約束ですけど
(しびる)>なんかすごく集中して仕上げた記憶があるんだけど ど
      ういう経緯だったのかは覚えてないんだよなあ
(のりこ)>どこかに掲載しませんでしたっけ? ポシブルさんとか
(しびる)>この時期にないだろ まださ 別件じゃねーの?
(のりこ)>ウチの仕事ってたまに怪しいときがありますしね
(しびる)>毎度同じことをしてるような気がしてるのにな
連作26 知連作10 ぷれ・ななめならずも 1
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 種別 連作系第26期 知連作10
 題名 『 ぷれ・ななめならずも 1 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月22日00時41分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】10 ぷれ・ななめ 1

 ST V.4.3 SLBs Nobi-Standard

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #10(A群)
 



        『 ぷれ・ななめならずも 1 』


                        作:しびる





  エアコンの本来の目的は居住空間の適化である しかしながら見
 渡す限り誰もない 経費削減やエコロジー それらの概念は存在し
 ないらしい 無人オフィスにごうごうと 涼しいよりは寒いくらい
  事務机が整然と配置され しかし眺めは非常に乱雑 システム端
 末はてんでばらばらに好きな方を向き 堆く積まれた書類や書籍の
 山脈 飲みかけのコーヒーカップやバイクのヘルメット アジアン
 タムの鉢植えに青松の盆栽 ヌイグルミやアイドル写真 職場とい
 うよりは なにかサークルの溜まり場のような光景 ではある
  そして暫時 設定温度を達成したからか エアコンの圧縮機が断
 末魔の唸りを残して静止した 突如訪れる静寂 騒音に慣れた耳に
 無音の耳鳴り しかし耳を澄ませば まったくの静寂ではなかった

 『あん やだっ だめっ』
  最初は白昼夢のように 世界の果てから艶かしい声が聞こえてく
 る 目を閉じて耳を欹てて 錯覚ではないことを再確認
 『もうやだあっ ううん そこじゃないってば もう』
 『おかしいなあ うまく入らない ちっ』
  声はひとりのものじゃない 甘えるような女性の声 それに低く
 男性の声 喘ぎ声か睦言か 聞こえる方向は隣室らしい
 『もういちど最初からだ 前戯のところから やりなおすからな』
 『ええっ そんなのないよ 時間がないのにさあ』
  妙に広いオフィスの中に さらに隣室へと通じるドアが設置され
 ている ドアに記されているのは『第1調整室』 なにを調整する
 のか凄まじく怪しいところではある さらに女性の声が続く
 『さっきのでさ いいことにしようよ あたしがしてあげようか』
 『馬鹿を言うんじゃない 俺にもプライドってものが またか』
 『やっぱりダメでしょ 時間もないし できれば明日に』
  第1調整室の中は薄暗い 同僚が出払っているのをいいことに昼
 間から情事と洒落込むのか 加えてなにやら機械音 部屋の隅から
 明かりが漏れる どうやら男女はその辺りにいるらしい
 『なにがなんでもやってしまうからな 明日まで我慢できるか』
 『へいへい それじゃ 前戯のところからね あん やだっ』
 『しかしあれだなあ 大泉君の声は非常に艶があってよろしい』
  さらに声の種類が増える 暢気に感想を述べているのはイスに座
 った初老の男性 大泉君と呼ばれてる女性は マイクを握ってニギ
 リコブシ システム端末を間に挟んで苦虫噛み潰しの男性 薄暗い
 第1調整室には 台詞のわりに無愛想な空気が流れてた
 『部長 納期は明後日です 邪魔するのなら退室してもらいます』
 『斉藤さんの技術力の問題じゃないかな とにかく時間がないんだ
 から あたしってば正午から用事があるんだよ ねえ 部長さん』
 『ふむ 大泉君も忙しいということで 今日はこれくらいにしてお
 こう 納期ならワシの責任でどうにかしようじゃないか ふむ』
  セリフを聞く限りでは 男性の若い方が斉藤 初老の男性が部長
 女性の方は大泉君と呼ばれている などと説明を最後まで続けても
 面白いだろうが とにかくこの辺りで登場人物の紹介でもしておけ
 ば 続く展開が少しは楽になるだろうかと蛇足する

  まず女性から 名前は大泉ななみ 年齢は20代前半らしい シ
 ステム端末を挟んでと説明したように 彼女の目の前には かなり
 大きめのモニターが 18禁な画像を表示して輝いている
  場所の所有者は法人であり 会社の名前は株式会社SRシスコム
 の子会社『ぷらぐいん』 斉藤と部長は前述が正解の正規社員 大
 泉ななみは少し違うらしいが それに関しては後述 ちなみに親会
 社のSRシスコムはPOSネット業界の中堅企業 ぷらぐいんはS
 Rが全額出資で設立 部長以上の役員はすべてSRからの派遣
  それでなにをしているのかと言えば 斉藤が端末を操り ななみ
 が喘ぎ声をあげる 部長は先ほどから腕を組んで座っているだけで
 こんな調子が既に3時間 午前11時30分になろうとしていた

 『仕方がないか それじゃ大泉さ 明日も朝から来てくれないと困
 るぞ お前から社長に話しておけな 予備日の契約もあるし』
 『ふう なんか苦手な仕事ですからねえ いいけど これも仕事』
  斉藤はイスに仰け反って背伸び ななみはマイクを机に置いて溜
 息 眺める画面には裸でいやらしいポーズの女の子が微笑んでいる
 ななみの仕事はアダルトパソコンゲームのアテレコ 業界で呼ぶと
 ころの美少女ゲーム ちなみに今日は日曜日だったりもする
 『尾崎さんにはワシから話しておこう 大泉君は急いだ方がいいの
 ではないかね いやあ 休日出勤ご苦労さんであった ふむ』
 『ふむ 部長さんも お付き合いご苦労さんであった あははは』
 『あはははってな 急いでるなら早く帰れ 俺も休日出勤だぞ』
  ななみは部長の真似をして馬鹿笑い 部長は大柄で物事に動じな
 い人らしいから 更にななみに合わせて馬鹿笑い 平和だ
 『事務所に連絡を入れるから 今日は社長も来てるんじゃないかな
 朝から犬飼さんがいたからねえ あたしが直に あ もしもし』
 『大泉って仕事が終わると事務所に連絡か なんかホテトル嬢みた
 いだよな 犬飼って誰だよ 共通の話題で話せよな いいけど』
  ななみは帰り支度に携帯電話を取りだし いつでも仕事が終われ
 ば事務所に報告 ちなみに犬飼氏はななみの担当マネージャーだ
 『もしもし はいはい はあ アダルトビデオの仕事 ほい いま
 終わりとゆーことで 次ですか そりゃもう あははははは』
 『アダルトビデオじゃないぞ まあいいけどな』
 『ウチの業務はシモ関係が多いからな 大泉君も大きくは間違って
 おるまいて いやあ 耳の痛いことであるなあ ふむふむ』
  部長はふむふむ頷く ななみは電話でも馬鹿笑いして 暢気に後
 ろ頭なんか掻いている 斉藤はタバコを吹かして首をコキコキ
 『んでは帰ります あたしってば凄く忙しいから 部長さん また
 明日も来ることになったので よろしくおねがいします』
 『ふむふむ 尾崎さんのところが嫌になれば 大泉君 いつでもウ
 チで採用するつもりがあるかな 安心して来たまえ ふむふむ』
  元気よく頭を下げて ななみはリュックを抱えて駆けだした 背
 後では部長がふむふむ喋っていたが ななみは構わずに猛ダッシュ
 とにかく時間がないらしい なにをそんなに急ぐのか とにかく
 『とにかく急げっ ひゃあ こりゃ遅刻かなあ』

  ななみはエレベーターを使わずに階段を駆け降りた ぷらぐいん
 が入居するこの第4緒方ビルでは 祝祭日にはエレベータが休止す
 る 使おうにも使えない エレベーターはビルオーナーの必要経費
 だから 先程のエアコンのように無駄な運転はさせないらしい
  ななみの移動手段はバイクである そのまま走り続けて裏の駐車
 場へ ホルダーに施錠したヘルメットをかぶり CBR400のエ
 ンジンを始動と同時に高速回転 前輪をロックさせたまま後輪だけ
 を滑らせる アスファルトとの摩擦計数は重心を移動させ 方向転
 換が終わったところで道路に飛びだした その途端






             》 しびる 《
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(のりこ)>ぷれななめの1です どこで発表してたのかと思いきや
      知連作で流してたんですね すっかり忘れてました
(しびる)>だな これって連作じゃめずらしく他人称でやってるな
(のりこ)>プラグにNスタを使ってますけど これ以後定着してな
      いですよね やっぱし1人称が馴染みいいみたいで
(しびる)>どこかで解説しようと思ってたんだけど この連作の形
      式な ヘッダに独白があって 本文を挟んでフッタにも
      独白じゃん のこ『ぷれななめ』は別だけどさ
(のりこ)>ほとんどそういう形式ですね
(しびる)>これってさ 朗読するのを念頭に置いて作ってるのな
(のりこ)>朗読ですか それはまた で?
(のりこ)>いや それだけ
連作26 知連作09 2週間 (5)
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 種別 連作系第26期 知連作09
 題名 『 2週間 (5) 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月18日03時52分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】09 2週間 (5)

 ST V.4.2 the Sibylline Books

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #09(B群)
 



          『 2週間 (5) 』


                        作:しびる





  火曜日は2講目から 朝イチで学校に来なくていいのは得した気
 分だけど 今日はそうもいかなかった 2講目のラテン語解析入門
 はレポート提出なのに この土日は手をつけられず きのうの夜遅
 くまで掛かって9割方片した その時点で重大な資料不足が発覚し
 たから いつもより早く家をでて図書館に直行 だったりする
  図書館は午前9時開館 2講目は10時15分開始 残り時間は
 1時間と15分 いや図書館から13号館までの移動時間があるか
 ら1時間ちょっと たぶん目当ての資料の原本はないだろうし 端
 末でサーチするのに10分は掛かって あああ 時間がない

 『おや ちかこも来てたか ラテン語総覧でしょ ちょうどいい』
 『あ おはよう 苦労して探したのに 山瀬には教えないわよ』
  振り向くまでもない あたしはこの検索端末ってのが苦手で た
 しかに便利だし優秀な機械だけど コンピューター関係は性に合わ
 ない しかも著作権とやらで画面のコピーはできないし まったく
 『なになに G項の188の9298 イハハのクニクハ ええっ
 とG項のイハハクニクハ ちかこにしては遅いじゃない おや』
 『なんか手がつけられなくて ああっ ちょっ ズルイわねえ』
  ラテン語総覧はそもそもそんな名前で登録されていなくて ジャ
 ンルを絞りながらようやく探したのだ で探し当てればお決まりの
 コピーガード指定 山瀬はあたしが苦労して複写した用紙をひった
 くりコピー機へダッシュ いつもこうなる 試験で苦労するのに
 『いいじゃない あたしとちかこの筆跡って似てるもの なにその
 手がつけられないってのは さては遅咲きの春でも来たかな』
 『そんなのじゃないもん 山瀬には理解できないような話 仕事と
 勉強を両立させるのは大変なのよ ストレスとか疲労とか』
  毎日いろいろ事件が起こるから 部屋に帰ってからもなんだかぼ
 んやり アルバイト禁止令を発令したお母さんの考えがわかるよう
 な気がする とにかくあたしには経験値が足りない そう思う
 『なんとかって喫茶店だっけ ああ これありがとう ウエイトレ
 スにそんなストレスがあるの 運ぶだけじゃない コーヒーを』
 『デュランタライム ターミナルの向こうのアーケードの先にある
 の でも来ないでよ 知り合いが来るなんてたまらないから ね』
  山瀬は親友のひとり フルネームは山瀬ひとみ 仲間内では最初
 から山瀬と呼んでいるから山瀬 ぷりぷりのお嬢様顔は本物のお嬢
 様らしい きっと一生アルバイトで苦労なんてしないタイプ
 『ふうん そんなものかねえ ちかこがクビになる前に激励にいか
 なきゃと思ってたのに でも大学生が多いでしょ 時間の問題ね』
 『ううん 近所の人とかが多いかな ターミナル駅の向こうって普
 通の商店街だもん 知り合いは誰も来ないよ あんなところまで』
  本当は喋っている暇はないのだ 図書館に人影はちらほら 今い
 るところは2階部分で ベランダのようになって1階の受付を見下
 ろせる ふと何げなく視線を移すと 誰かと目が合ったような
 『それにね 2週間だけだから あと10日くらい あら』
 『なに 誰かいるの そーれよりもっ インド・ゲルマン語族の対
 比はどうするの 古代ローマはなしでと ふむ カトリックか』
  確認しようと階下を覗き込む 振り返ればその隙に山瀬があたし
 のレポートをめくっている 与えられたテーマから好きなのを選択
 して論述する 自力で片せば試験に役立つ そんな仕組みなのに
 『見たって仕方ないでしょ 誰かに見られてたような気がしてね』
 『あははは ちかこを見たって仕方ないのにねえ そのなに スト
 レスが危ないところまでキてるんじゃない みんなが見てるのっ』
  そんなのじゃない あの緊張感は良い種類のストレスだと考える
 お給料はたしかに楽しみだけど あたしの人生にプラスになるだろ
 うなって 最初の動機もそうだし 今だって大義名分はそうだ
 『もういい 山瀬はアルバイトなんかしないから理解できない 仕
 事って責任があって誠実に努力しなくちゃいけなくて 大変なの』
 『まだ一週間もやってないんでしょ そのわりには偉そうなことを
 言うなじゃない わざわざ苦労しなくてもいいじゃない ねえ』
  じゃないじゃないって 理解できない人にはいくら説明しても無
 駄 偉そうなことを言って自分を追い詰めなければ 努力できない
 ってこともある あたしはだらしないから だから追い詰める
 『って言いすぎ あははは そんな顔しないの ちかこはすぐ顔に
 表れるから 気をつけなさい 客商売は笑顔でしょ ほら笑う』
 『いてて ほっぺたをつねるようなお客さんはいないもん なんか
 山瀬の喋り方って石原さんに似て いや はいはい笑顔ね 笑顔』
  危ないところだった ここで石原さんの名前をだすのは危険であ
 る すぐに論理が飛躍して なら見に行こうってことになるのは見
 えている もう話題を変えよう このまま続けるのは凄く危険
 『ところで 山瀬の誘ってくれてたライブ たしか来週の金曜日だ
 よね あれはダメかもしれない 週末は帰省するかもしれないし』
 『まあ それは仕方ないけど なに急に帰省って なにかあるの』
  来週の金曜日はあたしの誕生日なのだ アルバイトの報告もかね
 て お母さんが家でお祝いをしようってことに決めてしまった 来
 週であたしは20歳になる ううむ20歳 成人式は終わったけど
 『うん お誕生会 家でパーティだって 嬉しいやらなにやら』
 『ああそっか お給料をもらったら奢ってもらおうと思ってたけど
 ならプレゼントをあげなきゃね ちかこが20歳 あはははは』
  なぜ笑う 山瀬はもう20歳になっているけれど たかが数カ月
 そんなに違いはしないのに 社会性ならあたしの方が上 ぶらぶら
 してるお嬢様とは責任感が違う あたしは働く女性なのだ
 『この子供が20歳だもの って あら 誰か知り合いの人なの』
 『えっ ああ石原さん ちょっとね バイト先の知り合いなの』

  さっき感じた視線は やはり石原さんだったのか 校内で出逢っ
 たことはなかったけれど 図書館方面を主に徘徊する人だったらし
 い 山瀬の視線を辿って振り返れば 階段のところでにっこり微笑
 んでいる 適当に会釈して すぐに山瀬にフォローする
  しかし時既に遅し 山瀬の考えは聞かなくてもわかる なにやら
 複雑な笑顔はロクなことを考えていない証拠 あたしに男の人の知
 り合いだなんて それもバイト先の知り合いだって言ってしまった
 山瀬の頭の中で凄い想像が構築されつつある この先の展開はどう
 せうんざりするようなもの 困ったことになったと溜息
  それにしてもこの時間 石原さんは10時から仕事じゃなかった
 のか そう思って腕時計を見る あと15分 あたしも急がなきゃ
 間に合わない時間だ いろいろ考えるのは後にしよう





             》 しびる 《
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(のりこ)>2週間の5です いわゆる振幅の 緩和方のネタですか
(しびる)>だわな いわゆる反省会の方だ こうやって仕事しては
      反省会を繰り返して その間にネタを挟み込んでいく
(のりこ)>この山瀬ちゃんも きちんと展開に絡んでますよね 最
      初は捨てネームなのかなとか思いましたけど
(しびる)>今回は捨てネームはあんましないだろ 下宿の婆さんも
      使ってるし きちんと組むほどそうなるのが基本だな
(のりこ)>にゃるほど んじゃムダな展開があるほどきちんと組め
      てない証拠ってわけですか にゃーるほど
(しびる)>そゆこった
連作26 知連作08 川明かり
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 種別 連作系第26期 知連作08
 題名 『 川明かり 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月16日22時57分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】08 川明かり

 ST V.4.2 the Sibylline Books

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #08(B群)
 



           『 川明かり 』


                        作:しびる





  家の近所に川が流れている 僕がまだ小学生だった頃は その川
 の周囲には雑草や低木が鬱蒼と生えていて 場所によっては妖怪の
 類が住んでいそうだったり 不必要に深くなっているところで水難
 事故があったり それが原因で幽霊の噂があったりと そこそこ街
 中なのにとても自然な感じで 季節を問わず毎日の遊び場だった
  自然な状態は野放しの自然だから 大雨で氾濫する流れを制御す
 るために 僕が中学になる前に護岸工事がおこなわれて 今ではす
 っかり昔の面影はなくなってしまった 昔だって そんなに昔のこ
 とではないけれど でもこんな場合は昔って表現するものだろう

 『おや こんなところでなにしてんの 尻子玉を抜かれるわよ』
 『ああん ああ 魚釣り なおみちゃんこそなに こんなとこで』
  井堰の少し上流 今日は土曜日で学校は休み 昼過ぎからずっと
 ここで 確か昔は巨木の生えていた場所 夕焼けから夜への時間
 『あたしはあれよ 夕食のお買い物 なんたって主婦だもん』
 『大変だね 高校生なのにさ 家庭の事情はいろいろだろうけど』
  もうかなり暗くなってきて 空の高いところに夕焼けの名残が漂
 っている 背後からの声は同級生で小学校からの幼馴染み 中学の
 頃に両親が離婚して 彼女は父親と弟と3人で暮らしている
 『まあ いろいろね 魚なんか釣れるの いないでしょ もう』
 『釣れるけど 別に魚なんか欲しくないから逃がす でも昔よりは
 減ったかな 水曜日に降ったからさ ちょっと川底が綺麗すぎる』
  天気もよかったからぶらりと 本当は魚どころか釣り自体がどう
 でもよかったりして ただ川辺に座っているのも変だから 理由が
 欲しかったり コンクリートに数時間 水面に赤い空が反射する
 『ふうん そんなの釣りじゃないわよね 逃がすっても死んじゃう
 でしょ そのうちに なら食べてあげるのが供養よ きっと』
 『ああ どっちも嫌だなあ 仕方ない 今日はこれで終わりにしよ
 う 暗くなってきたしね ちょっと待ってて すぐ片すから』
  声を掛けられるまでなにを考えていたっけ なにかそりゃそうだ
 って感じのことを考えていたのに ぼんやりと 川面を眺めながら
 『お待たせ なおみちゃんちの夕食はなに 主婦かあ 凄いね』
 『なんにも凄くないわよ あそうそう さっきしんじ君のお母さん
 に逢ったわよ 良かったわねえ 今夜は焼肉だって ヤキニク』
  ふたり並んで歩く なおみちゃんは昔から同じ いろいろあった
 だろうに別段なんてことないって感じで それはあれよって顔をし
 て普通に暮らしている 釣竿とバケツ スーパーの袋となんだろう
 『なにそれ その持ってるやつ それも夕食に使うわけ』
 『これ ねぶし竹よ さや豆を蒔こうと思って これにツルが巻く
 の 見たことないかな 朝顔の植木鉢に刺したでしょ あれね』
  新聞紙からはみでているのは緑色の数本の棒 用途や目的は説明
 を聞いたとおりだけど さや豆ってのは豆類の種類のことで 蒔く
 ってことは 育てて収穫して調理して食べるってこと なるほど
 『ふうん ウチの母親も主婦だけど 園芸はしないな 焼肉だって
 ネギやタマネギを育てるわけじゃなし ましてや牛なんてさ』
 『あはは 牛は園芸じゃないでしょ 綺麗な庭があるじゃない あ
 れだって園芸よ しんじ君ね 花も手入れなしじゃ咲かないわね』
  それはそうかもしれない その辺に興味や知識がないから 母親
 が庭をどうしてるなんて見たことも考えたこともない なおみちゃ
 んは庭に野菜を育てる 朝顔の植木鉢 イメージの限界だ
 『なんか悩みごとでもあるの しんじ君ってば最近は ぼんやりし
 てることが多いでしょ 聞くぐらいなら構わないわよ あたしは』
 『なにを急に ないよそんなの なんとなく浮かないだけ』
  にっこり微笑まれて 見つめ合うのも変だから川を眺める きら
 きらと水面に乱反射するのは もうかなり暗くなった夕焼け空と対
 岸の街並み そんなにぼんやりしてたかな してたかもしれない
 『浮かないか なら水関係は危険だわ 悪い霊に誘われてるみたい
 に見えたわよ さっき だから声を掛けたの 気をつけなさいね』
 『なさいねって どうすればいいんだよ 気味の悪いことを』
  なおみちゃんは女の子だけど 男友達みたいだとはさすがに言わ
 ないが 中性の友達って感じ お互いいろいろなことを知っている
 から 隠し事はそう簡単じゃない 隠す必要もない そもそも
 『それもそうね この辺りもすっかり変わっちゃったから そうそ
 う危ないこともないかもね 昔はほら 特にこの辺りはねえ』
 『ああ そう言えば こっち側の岩肌に流れがぶつかって 底無し
 に深かったもん 3こ上の人だったよね 確かこの辺りだ』
  その例の事故現場 今は彼方から真っ直ぐの流れだけど 昔は東
 側から流れてきて ちょうどこの辺りで折れ曲がっていたのだ 削
 られて掘られて深くなり 松の木が覆い被さって不気味な場所が
 『今はこんなだもの どんどんいろんなことが変わってしまう そ
 れはそれでいいけれど まあ変わんなくちゃ面白くない かしら』
 『だろ でもみんな根っ子の部分は変わらないよね なおみちゃん
 は変わんなくて凄いけど 僕は変われなくて情けない なんてね』
  みんな少しずつ変わってゆく 少しずつなのにギャップを感じる
 のは 別にそれほど悩みじゃない ただなんとなく それだけ
 『あたし あたしはほらあれよ それどころじゃないから』
 『それどころじゃないか なおみちゃんはあれだね 強いね』
  赤黒い空にコウモリの乱舞 なおみちゃんに脇腹を小突かれて苦
 笑い 湿気の混じった涼しい風が吹き抜ける 頭の中をなにかが横
 切った感じがして 振り返ろうと思って辞めにした なぜかって
 『なんかさ 前にもこんな日がなかったかな 凄く夕焼けで』
 『さあね しんじ君と歩くのも珍しくないから 覚えてないわ』

  遠く鉄橋を電車が右から左へ もう少し土手を歩けば脇道へ逸れ
 る 砕石を敷き詰めた足元はジャリジャリと 昔は茂みで歩けなか
 った場所なのに 不意の水音は魚かカエル いつか経験した感じ
  しかしなんだかこれが最後のような ふとそう思ってなおみちゃ
 んを見る 目を細めて正面を向いて なにかつぶやいている横顔は
 楽しそうに 声を掛けようとして 午後からずっと考えていたこと
 を思いだした たいしたことじゃないから まあいいか






             》 しびる 《
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(のりこ)>なおみちゃんはシリーズじゃないですよね しんじくん
      もどこかで聞いたような名前ですけど 一足先にオトナ
      になってしまった彼女と なかなかオトナになれない彼
      氏とのギャップですか こゆことありますよね
(しびる)>そうか? 周囲じゃあんましなかったけど
(のりこ)>私の周囲にもそうですけど そうじゃなくて設定的にで
      すよ ありありの設定ですよね 女の子はただでさえオ
      トナになりやすいのに このなおみちゃんてば まあ
(しびる)>幼なじみってのもいろいろだしなあ 良し悪しかね
(のりこ)>ところでしんじくんが午後からずっと考えてたことって
      なんですかね なおみちゃん関係じゃできすぎですよね
(しびる)>年頃の男子が考えてることなんざ限られてるわな
(のりこ)>あら そゆことなんですか まあまあ なんとなくなお
      みちゃんも関係なくはないですか(笑)
(しびる)>だから『たいしたことないからいいや』となる
連作26 知連作07 むび
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 種別 連作系第26期 知連作07
 題名 『 むび 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月10日02時00分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】07 むび

 ST V.4.2 the Sibylline Books

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #07(B群)
 



            『 むび 』


                        作:しびる





  いつからか目覚めていた もう眠気は残っていなくて 珍しく視
 界の回復に意識が遅れた 初めから見えていたのに そうと気がつ
 くのにどれくらいの時間 いつからか ぼんやりと目覚めていた
  楽しげな笑い声がざわめきとなって 芝居じみた言葉がそれを追
 いかける いや芝居じみているは失礼か 目の前に両手を振り上げ
 るのは そうだ主演女優 彼女ひとりだけの舞台 なぜか周囲の情
 報が遅れてやってくる まだ なんとなく ぼんやり

 『眠ってたでしょ そんなに退屈な芝居だったかしら』
  ゆっくりと瞬きをする すぐ近くから女性の声に目蓋を開く 薄
 暗く遠くざわめき 舞台にいたはずの女性が隣に座っている
 『ああ いや失礼 なにかとても疲れていて そんなわけでは』
 『いいのよ 別にお金を取ってるわけでも 逆に強制してるわけで
 もないから あたしが真剣だからって ははん それは勝手よね』
  知り合いの誰かだったか 頭がぼんやりとして とにかく非礼を
 謝る 誰だったろう ここは確か大教室Kの210 だった
 『あの騒ぎの中で眠ってるんだもの 退屈って訳でもないかな』
 『そうだね そうか君の舞台を見ようと思って なのに眠ってた』
  なのに眠っていた 状況が頭の中で整理されつつある 薄暗い中
 で彼女と喋る 彼女は 彼女は誰だったか 自己紹介してくれない
 か 非常に親しいような初対面のような そして明るくなる
 『あら 怪我してるじゃない 血が流れてるわよ 大丈夫なの』
  眩しくて目を閉じる そして間近に彼女の顔 怪訝そうにそして
 心配そうに そういえば頭に差し込むような傷み 生暖かい感触が
 額に 彼女の手が頬に添えられて 彼女の呼吸を感じる
 『ケガ なぜ怪我をしてるんだろう ああ 少し痛いかな』
 『でしょ 傷は見えないけれど 待って 止血しなきゃいけない』
  自分の額が見える きらきらと輝く鮮血がゆっくりと額から頬へ
 自分と視線が絡む気がして そして元どおり 彼女の手がハンカチ
 を握り額へ 痛みが和らぎ 怪我のことは気にならなくなった
 『さっき殴られたでしょ そうか それで気を失っていたんじゃな
 いの 居眠りしてたなんて ごめんなさい 失礼なことを言って』
 『覚えていないから それにもう治ったから大丈夫 だと思う』
  考えを言葉に変換しながら しかしなにかに関する時間のことが
 沸き上がってくる 某かのイベントの時間に間に合わない もう既
 に機会を失っている そんな考えがぐるぐると渦巻く なんだ
 『後期の授業の登録 あれは確か3時までに提出だったよね』
 『そうよ あたしはきのう提出したから 3時を過ぎると受け取っ
 てもらえないもの もしかして まだ登録してないの』
  そうだった 彼女と向かい合って座っている もうこうして数時
 間も話しているような その前はどこにいたか ずっと喋っていた
 に違いない 今は何時だろう 3時を過ぎていれば手遅れだ
 『あたしが悪いのよね ごめんなさい どんなことでも償うから』
 『もう3時は過ぎているのか 困ったな これで留年が決まった』
  周囲の気圧が上昇したような ぎゅっと身体中が押さえつけられ
 て 取り返しのつかないことが起こってしまった そう考える前に
 彼女が謝る 彼女が原因なのか 責任転嫁しようとして躊躇する
 『ああ いや 悪くないよ なにか方法があるはずだから あんな
 に素晴らしい舞台を見せてもらって もしそうなら 罰が当たる』
 『そんな 褒めてもらうようなものじゃなかったから もしあたし
 が謝りにいって受け取ってもらえるなら 悪者になります』
  中庭のベンチに並んで座る 大木の根元は涼しい木陰 吹き抜け
 る風にざわめきが混じる 姿は見えないが かなりの数の人間がど
 こかで喋っている もしかすれば まだ受け付けているのか
 『それはいけない あの群衆の中で もしかすれば死んでしまう』
 『死なないわ だってあたしは女優だもん 心配しないのっ』
  彼女は立ち上がってニッコリ微笑む その瞬間 これまで眠って
 いた記憶が蘇る これは夢だ 彼女は夢の中の彼女 数年前に彼女
 はこの場所に実在していた 過去に戻って 彼女と対峙している
 『だからどんなことでもできるわ やってみなきゃ』
 『ああああああ 君は もう本当は卒業していて 君が命を掛けて
 努力することなんかないんだよ 怪我はほら 治っているから』
  なにを話しても彼女には理解できない 彼女はここにいるけれど
 これは現実の過去と繋がってしまった夢の世界 彼女は涙を流しな
 がら額の傷に触れる 出血が止まらなければ死んでしまう それだ
 けがふたりに共有された情報 しかし もうふたりとも歳を取って
 しまって この作業には意味がない そう告げたのに
 『お願いだから 最後に写真を撮ってね 消えてしまう前に あな
 たと一緒にいたって証拠が欲しいの お願いだから』
 『そんなもの すぐに消えてしまうのに でも まあいいかな』
  右肩に彼女の顔が見える 泣きながら笑顔 それ以上なにも言え
 なくなる 浜辺で海原を眺めながら 潮騒が人々のざわめきのよう
 に どこか遠くでたくさんの話し声が そんな気がする 少し離れ
 た場所からふたりを観察する 闇の予感 すぐに暗黒が訪れる
 『あなたはね もう本当は死んでしまっているの どうしてももう
 一度逢いたいって そう願ったから だから ごめんなさい』
 『そうか そんな気がしていた この先何歳まで生きていられんだ
 ろう 君と一緒に暮らしていたのかな 幸せだったのかな』
  暗黒の予感がいよいよ接近する そうだ これは彼女の見る夢だ
 ずっと一緒に お互いが老人になっても一緒に そう思っていたの
 に 生暖かい液体が額から流れる これが直接の死因なのか
 『そんなに長くないけれど でも 時間じゃないわ だって』

  だって どうなのか 予感に振り返れば暗黒 目を閉じて彼女を
 抱き締める 恐怖や不安ではなくて 彼女を残して消えてしまう悲
 しみ どれくらいの時間が残されているのか きつく抱き締める
  なにか悲しい夢を見ていた その余韻だけが心にぼんやりと と
 りとめのない情景の断片 記憶の片隅に取り残された女性の姿には
 どこかで見覚えのあるような 誰か知り合いだったか 気が付くと
 涙が流れていた そんなに悲しい夢だったのか 遠くで子供達の歓
 声 ただぼんやりと 悲しみがおさまるのを待っていた










             》 しびる 《
+++++++++++++++++++++++++++++++
(のりこ)>また夢のお話 今回はちょいと位相ネタっぽくなってま
      すけど 主軸がくるくる変化して 結局は誰の見る夢な
      のか怪しいまま終了してます
(しびる)>夢ってさ ホントにとりとめがないじゃん? 意味があ
      るようでまったくないし 筋も前後のつながりも
(のりこ)>ですよね しかしそれをなぜ懸命に描写しようとされる
      んですか? この夢シリーズの狙いはなんです?
(しびる)>なんだろうねえ もしかすればスタンダードが見付かる
      んじゃないかとか そんなことを考えていたかねえ
(のりこ)>とりとめのない世界に標準なんてありますかね
(しびる)>ないんだろうなあ
連作26 知連作06 ゆめうら
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 種別 連作系第26期 知連作06
 題名 『 ゆめうら 』
 初出 ニフティサーブ/FJAMEA/18番会議室
    1997年09月07日02時28分
 注釈 行頭スペース+30W
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SUBJ:【知連作】06 ゆめうら

 ST V.4.2 the Sibylline Books

 知は心に感じること 解る悟る見る想う 知連作 #06(B群)
 



           『 ゆめうら 』


                        作:しびる





  夜更かしを辞めて起床時間を繰り上げる 身支度とトイレと食事
 を詰め込むだけの朝 そんな暮らしを少し改善する 二度寝の誘惑
 もすぐに消え去り たいして努力せずに爽やかな朝が本物になる
  テレビサイズの映画を見る夜ならば 天気予報と占いのモーニン
 グショーをぼんやりと インスタントをコーヒーメーカーに切り替
 えて 新聞のテレビ欄に赤丸をつける 血圧と血糖値の暖気運転は
 長生きの秘訣かも そんなことを考えながら朝のタバコ とか

 『おはよう ふああああ なんか最近は夢見が悪いわ なんだろ』
 『うつ伏せに寝てるだろ コーヒー飲むか パンツぐらい履けよ』
  素っ裸にTシャツをざっくり着る 背伸びをすれば白い太股の先
 にうっすらと茂みが見える 見ようと思えばいつでも見えるものは
 整った状況や特種な精神状態でなければ ただの身体の部位
 『ああん ああ まんま寝ちゃったのか そういやガビガビだわ』
 『朝飯が不味くなるようなことをだな ふん 夢ってどんな』
  どうですかと自問すれば にやにや笑っちゃうくらいのかわいさ
 だけど 奥歯に物の挟まったような顔をして太股を摺り合わせるさ
 まは この状況で興奮してた頃を反芻してみる コーヒーを飲む
 『ゆめ ああ夢ね なんかほらあるじゃない あたしが悪いってこ
 とをね みんな知ってるのに知らない振りをするの 辛いわあ』
 『あるじゃないって言われてもな 悪いことってなに 犯罪とか』
  一緒に暮らすようになってどれくらい 恋人関係での同棲状態と
 籍を入れない内縁関係の違いは ただ年齢とか近所への挨拶ではな
 いだろうと そんなことが脳裏を過る歳月 どうでもいいが
 『たぶん小学生くらい お婆ちゃんが生きてたもの お姉ちゃんの
 手鏡を割ったのよ 夢の中でね 言えなくて 知らない振りして』
 『またかわいらしい設定だな まあ 子供にゃ大事件だろうけど』
  しきりに顔中撫でまわし これは彼女が寝ぼけているときの仕草
 大欠伸しながら頭を掻いて はふうと息を吐き そしてテレビのリ
 モコンを押しまくる どこも同じ朝の番組 一応は調べるらしい
 『家族中で大騒ぎでね 勝手に落ちるはずないとか お母さんが掃
 除したときにはどうだったとか みんな犯人は知ってるのにねえ』
 『実話だろ それ お前んちでやりそうなことだよな  食うか』
  朝は米の飯 パンやフレークは食事と認められない おそらく同
 じ時間に眠っただろうに 1時間早く起きて炊飯器を確認する
 『そうかもしんないなあ 妙にリアリティがあったもん 今はあん
 なだけど 子供の頃のお姉ちゃんはさ それはそれはもう ねえ』
 『妹の交際相手を平手で殴るような人だろ あれで今はあんなか』
  異常に仲の良い姉妹 初対面の出合頭に平手打ち どうもと挨拶
 する間も与えず 夢の真意はトラウマだろう 子供は無慈悲で残酷
 で狡猾で そして無条件に愛され許される 主人公は誰だ
 『あんなよ 本気で殺されるんじゃないかって真剣に思ったことも
 あったわ でね わけもなくお婆ちゃんが犯人になったりして』
 『夢の話の続きか 辛いなら白状しろよ 婆さんがかわいそうだ』
  夢は概して論理性に欠ける よほどのストーリーテラーでなけれ
 ば 自分がその場で感じた空気を他人に実感させることは不可能だ
 目覚めの興奮も手伝って 大抵は聴き手の理解力を過信する
 『だって夢だもん お婆ちゃんがね 泣きながらお姉ちゃんに謝っ
 てるの なんてまあ辛い夢 今朝は食べない 食欲ないから』
  彼女は昼過ぎまでごろごろ 水商売以外にも午後出勤の仕事はあ
 る 一般的な方には30分少々 まだ急ぐ必要はない 音を立てな
 いテレビには 真っ赤に塗りつぶされた天気予報 太陽は赤くない
 晴れた空も赤くない 昼間から空が赤く染まる 世界の終焉予報
 『なにか 隠し事をしてるのか 金でも男でも秘密結社でも なん
 だって許してやるから毒殺は考えるなよ 許す なんでも許す』
 『はあ まあ隠し事がないわけじゃないけど なんで ああそっか
 保険金掛けて あたしが真っ先に疑われるじゃない 非現実的だ』
  向かい合って座って見つめ合わずにテレビを眺める ついでに喋
 っているだけで ひとの夢について本気で興味をもてる人間がいる
 ものか なんたって夢だ 実際の事件なら聞こう 彼女の正体には
 興味がある 何星人が人間の家族に紛れ込んだのか とか など
 『俺が殺されてだな お前が犯人だってみんな知ってるのに 知ら
 ない振りして責めたりして 勝手に死ぬはずないのになあって』
 『うへえ それも辛い 烏龍茶飲もう なんか首筋が変だなあ』
  立ち上がって背伸び 今更なにを隠そうかって仕草は もう完全
 に警戒心もなく おそらくさっき見た夢も最初の方が怪しくなりつ
 つある 夢はそんなもの せめて言葉にされたものだけが残留でき
 る 消化しきれない感情の中和作業 見た時点で完了している
 『うつ伏せに寝るからだ 新生児じゃなし 上を向いて寝ろ』
 『おっその言葉も覚えてる 予知夢だ まだ出掛けなくていいの』
  Tシャツの上から尻を掻き 冷蔵庫の中をひっかき回す 残念だ
 が烏竜茶は飲んでしまった 面倒なので言わずに放置 ミネラルウ
 オーターがある それを発見して飲むだろう 好きにすればいい
 『ああ そろそろ着替えなくちゃいかん うん なんだ今頃に』
 『なんだろ こんな時間に電話を掛けてくる人は いたかな』
  不意に電話が鳴る 特に意味はないが 朝っぱらからの電話のベ
 ルには不吉な予感 深夜よりも朝 瞬間 割れる鏡の夢占い
 『なんだ 慣れた挨拶だったな 姉さんか それとも』
 『あたり お姉ちゃんから お母さんがね あ 烏龍茶のボトルが
 捨ててある やっぱり飲んじゃったな あたしのって言ったのに』
  壁際にごみ箱 その上に電話 受話器を置いて視線をずらせて発
 見したのか わざわざ拾い上げて確認している この執着心は独特
 のもの それよりも電話の用件を先に話せ 気になって仕方ない
 『そんなことはいい 水を飲め それよりも 電話はなんだ』
 『ああ あたしが誰かに怒られてる夢を見たから 注意しろって』

  なんだかばかばかしくなって カップに残ったコーヒーはそのま
 ま立ち上がる スーツに着替えて電車に乗って 今日も終日仕事を
 する 営業で汗をかいて伝票整理でクーラー攻撃 だからせめての
 快食快眠 早起きしてゆとりの時間 馬鹿話を聞く時間じゃない
  腰に手を当てて仁王立ちの彼女を 回り込んで後ろから抱き締め
 少し持ち上げて床に降ろす 柔らかい腹の肉を一応調べただけ あ
 まり意味がないのはお互い様 いつもの朝








             》 しびる 《
+++++++++++++++++++++++++++++++
(のりこ)>夢のお話です ひとの見た夢の内容について まこと仕
      方がないばかりで終わるのと思いきや 最後にオチが
(しびる)>あんましとりとめがなくなりそうだったし 終了間際に
      ちょいと付け加えた 鏡ネタもなんとなく繋がったし
(のりこ)>最後にうしろから抱き上げて ちょっと持ち上げて降ろ
      すのっていいですよね 軽く愛情があって
(しびる)>どうでもいいじゃん なんてことない日常を切り取るだ
      けの作業だし あんまし意味とかないんだ どの表現も
(のりこ)>でしょうね

Appendix

そうめんのカビ

 そうめんに限らず 穀物に生えるカビには発ガン性のあるものも存在します もったいないですがそうめんにカビが生えたらば廃棄処分しましょう 同じようにモチやパンもカビが生えたものは食べない方が賢明です

文責:そうめん愛好家・篠原のりこ


関連項目
編集会議 138
*議事録後半に『そうめんのカビ』について触れています


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 ネット作家・篠原しびるが各所に書き散らかした作文を分類整理するために開設されたのが『篠原リサイクルテキスト研究所』です 篠原しびるをご存じではない方も心配しないでください 当研究所が開設されたからには 篠原しびるが思いの丈を注ぎ込んだ様々な作文をつぶさに閲覧し その人と成りをば誰の目にも明らかになるように見事分類整理されてしまうことでしょう しばしお待ちください そしてとくと堪能してください

 いつも思うのですが冒頭の挨拶はこれくらい曖昧でもいいのでしょう(ジオ分室トップページより抜粋)

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